ブルーグラスとサラブレッド

★サラブレッドと牧草 ★世界遺産のマンモス・ケーブ鍾乳洞 ★バーボンを生み出す魔法の水


 ケンタッキー名物のサラブレッドと、鍾乳洞やバーボン・ウィスキーを結びつけているのは、実は地中の石灰石層です。

=====================サラブレッドとブルーグラス=====================

 「おお牧場は緑」はチェコ民謡なのだそうですが、♪♪草の海/風が吹くよ/おお牧場は緑/よく茂ったものだ♪♪と聴くと、頭では分かってはいても、私たちが住んでいるケンタッキー州のレキシントン周辺の風景が歌われているに違いないと錯覚してしまいます。昨日も、ゴルフをしていると若駒2頭が20〜30メートル先の柵のそばまで駆けくだってきたので、ティーショットの手を休め思わず見とれてしまいました。

気候区分と芝種

  厳冬湿潤域   厳冬乾燥域     中間  厳夏湿潤域

    厳夏乾燥域   亜熱帯域

今撮ってきたばかりの近所の牧場の写真です。

 ケンタッキー州の愛称「ブルーグラス」は牧草です。日本人は色が「緑」でも「青ねぎ」「青信号」と言って気にもとめない民族ですが、アメリカ人の間では緑の牧草を「ブルー」というのはおかしいというので議論になります。刈らずにおくと春から夏にかけて丈が50p〜1mに伸び、穂が風に吹かれてそよぐ様が青みがかって見えるからだという説が有力です。

ケンタッキーの地域区分

(州観光局の区分を参考にしました)

 家の芝生やゴルフ場のラフにも使われています。手入れのいいゴルフ場では、しっかり肥料をやってとんでもなく密度の濃いラフを仕上げますが、こうなると、5pほどの芝丈でもボールがすっぽり埋没して探すだけでも一苦労。しかも、ブルーグラスは最も硬い芝…PGAで優勝を争う一流選手といえども、球にスピンをかけられずに苦しむ所以(ゆえん)です。

 高温乾燥には弱く、右上の地図では緑色で表示されている厳夏・厳冬地の中間域から北で広く使われています。とりわけケンタッキーのブルーグラスがクローズアップされるのは、それだけレキシントンを中心とするブルーグラス地方に牧場が目立つからでしょう。数字的には牛を飼う牧場の方が多いのでしょうが、特にレキシントンの周辺では、アパラチア山脈に連なるうねりのある丘陵にしなやかな肢体のサラブレッドが草を食む姿が見られます。

=====================世界遺産のマンモスケーブ鍾乳洞=====================

露出した石灰石の層

牧場の石垣

 ケンタッキー州一帯の地下は水に溶けやすい石灰層で、サラブレッドはカルシウムその他のミネラルをいっぱいに含んだ牧草を食べて育ち、世界最強の競走馬にふさわしい強い骨格を築くのだと信じられています。

 エンパイアステートビルなどに使われた良質の建築用石灰石となると北隣のインディアナ州南部が本場ですが、ミシシッピー川とオハイオ川の分岐点のあたりから、北と東西に、広く石灰石の地層が広がっているようです。

 このあたりの石灰石は堆積面に沿って薄く割れやすい頁(けつ)岩で、ブルーグラス地方には、黒人奴隷が積み重ねて作ったと伝えられる石垣を今に残している牧場が数々あります。高速道路を運転していれば、石灰石の層は左右の削り取られた岩肌に露出していますから、ケンタッキーやテネシーにお住まいの方にはよく見慣れた光景ですね。

マンモスケーブツアー

 この石灰石層こそ、イースタン・ケンタッキーからテネシーや南部インディアナまで至る所に鍾乳洞を作り出した犯人です。中でも、サウスセントラル・ケンタッキーの世界遺産マンモス・ケーブ国立公園は、1859年に発見されて以来、調査で分かっただけでも延べ367マイル(590km)…未だに全容が解明されていないのだそうです。ルートからスケジュールまで多彩なツアーがあって、予約が必要な場合もありますから、事前に良く調べた上でお出かけください。

 フロリダやテキサス、ミズーリもそうですが、アパラチア山脈の山麓に当るケンタッキーやテネシー、アラバマ、ペンシルバニアでは、宅地建設でも工場団地の造成でも、地下構造のチェックが最初の大事な関門です。しっかり調べておかないことには、もしもの時に地面が陥没して、シンクホール(Sinkhole)ができてしまうおそれがあるそうです。

=====================バーボンを生み出す魔法の水=====================

Jim Beamの工場 (Clermont)

倉庫の窓から樽が見えます

Buffalo Trace (Frankfort)

 地下水脈で石灰石のミネラルをいっぱい吸い込んだ水は、名物バーボン・ウィスキーの生産に欠かせない魔法の水でもあります。ウィスキーは開拓民の活力の源だったようで、ケンタッキーへの植民が始まるやいなや直ちにバーボンが誕生したようです。

 アメリカのウィスキーの過半はケンタッキー、三分の一がテネシーで生産されています。バーボン・ウィスキーと表示するには、主成分がとうもろこしで樫材の樽に入れて2年以上寝かすなどの法的要件を満たす義務がありますが、必ずしもケンタッキー州内で生産される必要はありません。

 戦前は1920年代の禁酒法で大打撃を受けたり戦後は人々のアルコール消費が多様化したり、今では蒸留所の数も減ってしまいましたが、バーボンは、むしろ日本やヨーロッパで人気が高く、キリンや宝酒造などの日本メーカーが生産や販売に参入しています。

Maker's Markのビン詰め工程 (Loretto)

Heavn Hillの倉庫 (Bardstown)

 アメリカでも人気TVドラマ「セックス&ザ・シティ」のおかげで都会の若者の間にカクテル人気が復活、バーボンの売上も少し回復の兆しがあり、多くの蒸留所が気をよくして観光客を呼び込んでいます。バーボン巡り(Bourbon Trail)という7つの大手ウィスキー蒸留所を見学するよくできたプログラムがあります。「パスポート」にスタンプを7つ押してもらったら、蒸留所協会からプレゼントがあるそうです。八十八ヶ所の霊場巡りほど日数はかかりませんが、アメリカの田舎の観光ツアーはのんびりしているので、1日では回り切れませんよ。⇒アメリカのお買物と食事・e-百科「バーボン・ウィスキー」