アメリカ人と宗教について
B日陰で育ったリベラルな米国流カトリック
16世紀は西欧近代のあけぼの。宗教面においても、中世を通じたローマ教皇の一元的な支配が終わり、プロテスタント各派やイギリス国教会が新勢力として台頭してきた時代ですが、いち早く航路を開拓して世界を制していたのは旧教(カトリック)国のスペインとポルトガルでした。
スペインは、中南米全土を破竹の勢いで征服し原住民の教化に成功しますが、新教国イギリスは1588年のスペイン無敵艦隊撃破を契機に制海権を奪い17世紀に本格的な北米植民を始めます。ですから、初期のアメリカ入植者は清教徒(ピューリタン)やイギリス国教会の信徒で、アメリカではカトリックは敵対勢力だったのです。
実際、1776年の独立宣言当時のカトリック信者は、全人口のわずか120分の1という統計が残っているそうです。それが、現在のように4人に1人がカトリック信者となった最大の理由は、19世紀から20世紀初頭の西欧からの移民…特にアイルランドとドイツからの移民の流入によるものと言われています。
確かに、2000年の国勢調査(Census)を見ても、白人アメリカ人の先祖の最大派閥は、ドイツ(19.2%)とアイルランド(10.8%)、続いてイギリス(7.7%)、イタリア(5.6%)、スカンジナビア(3.7%)、ポーランド(3.2%)となっています。ただし、この調査は完全に自己申告制ですから、単に「アメリカ人」と回答している人も7.2%います。また、国勢調査の分類にないスコティッシュ・アイリッシュ(スコットランド系アイルランド人)が全人口の15〜18%いて、ドイツ人に次ぐ勢力ではないかという説もあります。
アイルランドやイタリアからの移民には東部の大都市で未熟練労働者となるケースが多かったのに対して、比較的豊かなドイツ系移民には内陸部に土地を買い農業を始める人々も多かったそうです。中西部に、カトリックばかりでなくルター派の信仰が浸透しているのも、そのせいでしょう。スコティッシュ・アイリッシュ系が多いペンシルバニアからアパラチア山脈の一帯には長老派の教会が多いのだそうです。
カトリック教会が社会的に排斥されていたのは「移民の教会」として見下されていたからだけではありません。もともとローマ教皇を頂点とする権力構造がアメリカの自由平等の建国理念に合わないところがあるのです。そこで、1789年にアメリカで初の司教となったジョン・キャロルは、教皇庁の支配をかわし、カトリックの「アメリカ化」に努めました。ラテン語の祈祷を廃し聖書は英語が正本となりました。プロテスタントと同様、教会は信徒の自治で運営されます。
人工中絶の是非など重たい倫理上の問題でも、法王の指導に従うべきと考える人は、今では、極めて少ないようです。むしろ、カトリックには、聖書一辺倒の福音主義プロテスタントよりは、はるかに柔軟な思想を持つ信者が多いでしょう。これまで、カトリック教徒から大統領になったのはアイルランド系のジョンFケネディーたった一人というのは驚きですが、政治的にはリベラルな民主党を支える勢力だと考えられます。
最後に蛇足となりますが、カリフォルニアとメキシコ国境沿いにカトリック教徒が多いのは、近年流入を続けるメキシコ移民の影響です。
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