世界経済の具合がおかしくなってきて少し心配ですが、犯人と名指しされているのが、アメリカの低所得者向け住宅融資=「サブプライム・ローン」の破綻です。私は元銀行員。少しお固くなりますが、たまには金融系の話題をレポートいたしましょう。
プライムといえば「一級品」のこと、サブ(スタンダード)といえば「(標準)以下」のこと、サブプライムといえば「二級品」のこと。「サブプライム住宅ローン」とは、低所得者や延滞履歴などがあって信用度の低い人たちへの融資ということです。
アメリカには、個人信用の格付け会社が複数ありますが、FICOという会社の最高が850点で最低が300点のクレジット・スコアが最も広く使われているようです。FICOの点数でサブプライムの債務者とみなされるのは普通620点未満の人々で、低所得者と合わせると、全米人口の約25%にもなるそうです。ところが、サブプライム住宅ローンは、2004年以降、全住宅ローンの20%にものぼるというのですから、金融機関は誰彼かまわず喜んで貸したと見ていいでしょう。
サブプライムの債務者は、月々多額の返済をすることができませんから、支払いを楽にするよう数々の工夫がされています。一番ポピュラーなのは「アイ/オー」=イントレスト・オンリー住宅ローンで、利息だけ払えば元本の返済はしばらく要らないことになっています。それどころかピック・ア・ペイメント住宅ローンというのもあって、アメリカのクレジット・カードのように、月々の最低支払額以上なら返済額はいくらでもいいというのもありました。返済が月々の利息以下なら、借金が逆に増えていくという背筋が凍るようなローンです。原則として30年ローンですが、3年もすると返済負担軽減期間が終わり、高金利で元利を合わせて返済しなければならなくなります。
当初3年固定金利→その後27年変動金利の典型的サブプライム住宅ローンの例を見てみましょう。25万ドル借りた場合の利息は最初の3年間$1,200/月が4年目には$2,235/月になります(ちなみに元金は均等返済なら$700/月)。融資時には割高な手数料を請求され、延滞したら多額の遅延損害金を払わなければなりませんから、余裕のない人々が返済を続けられるわけがありません。サブプライム住宅ローンが増え始めてから3年経って焦げ付き(延滞)が増えてきたのは当然の成り行きです。後2年くらいは続くでしょう。
アメリカでも、住宅ローンを貸すのはたいてい銀行などの金融機関ですが、大部分は「証券化」して転売してしまいます。野球選手やフットボール選手の成績でも何でも、とかく数字で表わすのが好きなお国柄ですから、サブプライム住宅ローンの安全性(延滞確率)も数値化します。1件ごとのリスクは高くても、たくさんかき集めればリスクは分散される「みんなで渡れば怖くない理論」などでもっともらしく説明したので、アメリカだけでなく各国の投資家が購入しました。
アメリカの住宅バブルは上図のように大都市や観光リゾートのある州で顕著でしたが、2005年8月がピークで、2006年からは住宅価格の下落と差し押さえの増加が目立つようになって来ました。
借金を多額に抱えているのは低所得者だけではありませんから、日本のように住宅バブルが崩壊したら、さらにたいへんな事態になります。住宅ローンの返済が進んでくると、家を担保に比較的低金利で使途自由の「ホーム・エクイティー・ローン」を借りることができます。これまでは、年々家の評価額が上がるので融資枠もどんどん増え、平均的なアメリカ人が借金で消費を伸ばし、景気を支えてきたのです。
統計では、ケンタッキー周辺の住宅価格の上昇幅は比較的小さかったようにも見えますが、小邸宅から豪邸、コンドミニアムの建設ラッシュで、不動産は供給過剰。競売や売れ残りの新築物件も増えてきて、景気の先行きに微妙な気配のする今日この頃です。