北米の観光地めぐりに飽きてきた皆さんに…

　｢野球の殿堂（Hall of Fame)｣がどこかご存じ？

　所詮、ビジネスの宣伝のためでしょうが、世間には、くだらないことにお金を使う人がいるものです。Tシャツ・ブランド｢エッコ（Ecko)｣の35歳のオーナー・デザイナーがその人…ボンズが大リーグのホームラン記録を更新した756号の記念ボールを$752,467で競り落とすと、人々の投票で、ボールの運命を�@野球の殿堂に寄贈する�A星印（アスタリスク）を書き入れて野球の殿堂に寄贈する�Bロケットで宇宙に打ち上げるの三択の中から決めてもらおうと早速ホームページを開設しました。そして、１千万件以上の投票の末、ボールは�@34％�A47%�B19%で、星印（アスタリスク）を書き入れて野球の殿堂に寄贈すると決まりました。殿堂側は｢喜んで受け入れるが、（星印があっても）殿堂がボンズの薬物疑惑を認めたことにはならない｣という趣旨の声明を出したのだそうです。

　もっとも、以上は今回のレポートの本題ではありません。このニュースを伝える新聞記事の中にクーパーズタウンという地名がたびたび出て来たので、初めて｢野球の殿堂｣がどこにあるのか知ることになりました。ニューヨークといえば普通マンハッタンがあるニューヨーク｢市｣を思い浮かべますが、｢州｣はといえばカナダと長い国境線で接するなかなか大きな州…クーパーズタウンはその真ん真ん中の小さな町です。何で人口２千人の小さな町に｢野球の殿堂｣があるのでしょう？

　真偽は定かでないようですが、後のダブルデイ将軍（南北戦争：北軍）が1839年にクーパーズタウンの牛の牧場で野球を始めたという説があるそうです。｢野球の殿堂｣が開館したのは、｢野球の発明｣からちょうど100周年の1939年。クーパーズタウンは釣りの名所としても知られるオステガ湖のほとりにありますが、当時は大恐慌の名残りで観光客は減り禁酒法の影響でビール原料のホップ栽培も行き詰っていました。町の有力者でホテル経営者のクラーク一家は当時の有力企業シンガー・ミシンの関係者で、創業者の曾孫を担ぎ出して｢野球の殿堂｣を誘致したという町起こしのサクセス・ストーリーです。

　ベーブ・ルースと鉄人ルー・ゲーリッグがニューヨーク・ヤンキースに在籍したのはそれぞれ1920〜35年と1923〜39年ですから、当時は大リーグの全盛時代でした。開館に先立つ1936年に最初の５選手が殿堂入りしています。写真中央が球聖タイ・カップで、左下がベーブ・ルース…そもそも野球の殿堂はベーブ・ルースの引退を記念して設けられたようなものですね。毎年５月か６月に、クーパーズタウンのダブルデイ球場で大リーグの試合を行うのが恒例になっています。

　ついでに、アメリカにはどんな｢殿堂｣があるのか調べてみました。殿堂といっても、かなり怪しいものもあり、建物がなくて（ネット上の）ヴァーチャルな殿堂もありそうですから、比較的まともらしいのをピックアップしたのが下の表です。そもそもの元祖は、現在ニューヨークのブロンクス・コミュニティーカレッジ内にある｢偉大なアメリカ人の殿堂（1900年落成）｣のようです。ほとんどの殿堂は博物館をかねています。スポーツの殿堂が圧倒的に多いのですが、テニスやゴルフなどはアメリカ生まれでもないのに｢国際｣や｢世界｣などと名乗っていいのかしらと余計な気遣いをしてしまいます。音楽系ではテネシーやミズーリが自己主張していますが、ケンタッキーはサラブレッドやバーボン・ウィスキー、鍾乳洞など観光地には事欠かないせいでしょうか｢殿堂｣の名前を冠した博物館は私の調べでは皆無でした。