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2014年9月15日(第99号)


黒人住民と警察・州兵が衝突…8月ミズーリ州騒乱の深層

 その夜、追悼の花やキャンドルに警察犬が小便?

 セントルイス近郊のファーガソンという町で、1992年のロサンゼルス暴動、2001年のシンシナティ暴動を思い出させるような騒乱(写真は8月14日)が起こりました。日本のマスコミもかなり時間を割いて報道していましたが、現地報道を詳しく読んでみると、人種差別の域を超え、黒人なら虫けらのように殺して悪びれない白人警官が多数いたことが分かってきました。

 全米どこでも、中流市民が集まる住宅街で暮らしていると安全で、次第にアメリカの病巣に無関心になってしまいますが、ミズーリ州は大統領選挙を左右する州の一つで、皆さんに大騒乱の深層をお伝えすることは、今後のアメリカの政治の行方を占う上でも重要だと考えました。


黒人が住む白人支配の町


 騒乱の舞台となったファーガソンは、セントルイス国際空港に近いセントルイス郊外の歴史ある町。失業率は州の平均レベルで、凶悪犯罪の発生率も高い方ではありません。

 1990年代から人口は2万1〜2千人で増減していませんが、住民の人種構成は白人多数から黒人多数に劇的に変化しました。しかし、市長選挙の投票率はわずか12%で、その後も白人市政が続いています。

 特に警官は53名中に白人が50名という片寄った人種構成。騒乱の発端となる射殺事件を起こした警官も、南18マイルの遠い町から通勤している白人でした。

 2013年の警察資料でも不審尋問や家宅捜索を受けたり逮捕された者の大半が黒人で、日常的に偏見に基づく治安活動が行われていた疑いが持たれています。


車道の真ん中を歩いていたから、射殺?


 最初の事件は8月9日の正午。多数の目撃者がいる中、黒人で18歳のマイケル・ブラウンが白人警官に射殺されました。

 後に警察は、マイケルが10分前に近所のコンビニで起きた強盗事件の容疑者で、警官は事件の通報を受けて駆けつけたかのように虚偽の事実を公表しましたが、ほんの数時間で前言を取り消しています。

 諸情報を総合すると、事件の経過は以下のようになります。

@ 子供が病気の911番(日本の110番兼119番)通報があり、パトカーでダレン・ウィルソン警官が出動。

A 車道の真ん中を歩いていたマイケルと友人を見とがめて口論が起こる。

B ダレンはパトカーをギリギリに寄せて止まり、マイケルに銃口を向け、窓越しに胸ぐらをつかむもみあいとなる。

C マイケルは逃げたが、ダレンはパトカーを降り追いかけて背後から発砲。

D マイケルは立ち止まり、振り向いて手を上げ「撃つな」と懇願。

E ダレンに射殺され、マイケルは即死。

F 数分後、最初の911番通報で通り合わせた救急車がマイケルの死亡を確認。

G 他のパトカーも駆けつけて現場保存。遺体は、事件現場に数時間放置。

 下のCNNの動画ニュースには、遺体を確認しようとして警官に追い返されるマイケルの親族の姿も映っています。

 さらに、その夜はマイケルの血痕が残る現場に花とキャンドルやぬいぐるみが飾られ近所の住民が祈りを捧げていましたが、警官のひとりが警察犬に小便をかけさせ、パトカーが通過して追悼の品々を蹴散らしたとも伝えられています。


「撃て!! 撃て!!」と言ったから自殺?


 通夜と抗議行動は翌日も朝から続きました。武装警官隊の監視の下で大方は平穏でしたが、午後9時に最初の略奪騒ぎが始まり、少なくとも12軒の店が襲われガソリンスタンドとコンビニが放火されました。暴徒の多くは他所者との見方もあります。

 その後、暴動が毎夜恒例となり、戒厳令が敷かれ州兵が出動して鎮圧にあたる大騒乱となったのはご存じの通りです。その間、8月19日には、最初の事件現場から4マイル離れたセントルイス市内で、またまた正午過ぎに白人警官が黒人を射殺する事件が発生しました。この事件の特殊なところは、事件の一部始終がスマホで撮影されて克明に記録されていることです。

 下のCNNの動画ニュースでは、開始から3分52秒で25歳のカジーム・パウエルが射殺される前後の映像が始まり、銃撃の瞬間から静止画像と音声に切り替わりますが、YouTubeには補正前のオリジナル動画がたくさん残っています。

 カジームはマイケルのように素手ではなく、ナイフを手にしていました。直前に金を払わずにコンビニの商品を持ち去り、通報を受けた警官2名がパトカーで駆けつけたあたりの事情も警察の説明を信じてよさそうですが、「ナイフを頭上にふりかざし、後3〜4フィート(約1m)まで警官に迫ってきたので撃った」というのは動画を見れば誰でも見破れる明白なウソ。しかも、警官に向かって「撃て!! 撃て!!」と言ったから覚悟の自殺だという無茶苦茶な言い訳をしています。


暴言や脅迫行為で3人の警官がクビ


 警察は2001年の同時多発テロ以来、全米の警察が軍隊レベルの装備を導入しているのだそうで、今回も警察が早々にデモ隊に催涙弾とゴム弾を撃ちこんだことが、住民の一層の怒りを買い、騒乱を激化させました。

 騒乱が収拾に向かったのは8月20日、黒人で初めて司法長官に就任していたエリック・ホルダーが出向いてマイケルの両親と面会してからです。両親は、マイケルの葬儀が予定された8月25日を平穏に迎えるよう住民に呼びかけました。

 この間に3人の警官が、暴言や脅迫行為で解雇されたり、停職の末に辞職させられています。写真のレイ・アルバーズは近隣の町の警官で、無抵抗の市民に半自動小銃を向けて「殺すぞ」。セントルイス郡警のダン・ペイジはCNNのリポーターに喰ってかかって「殺られたくなければ失せろ」等々暴言を吐いた挙句に黒人のオバマ大統領のことを「ケニヤ生まれの偽国籍…」。また別の近隣の町の警官マシュー・パパートは、警察に抗議する住民をボストン・マラソン爆弾テロ事件の犯人に見立ててフェイスブックに「バックパックのイスラム教徒…」。

 今後、連邦政府は、過去のファーガソン警察の行為やデモ隊への過剰な治安活動も含め、広く公正な捜査を進めることになっています。