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2014年12月15日(第102号)


ニューヨークでは2万人…全米で続く抗議デモ

 警察の人種差別と過剰威力行使の実態

 8月にミズーリ州セントルイス郊外のファーガソンで、丸腰の黒人が白人警官に射殺された事件については第99号で詳しくお伝えしましたが、11月24日に白人が過半数を占める大陪審が警官を不起訴と評決してから、現地では暴動が再発し、全米各地で抗議デモが起こりましたね。

 時を前後して、オハイオ州クリーブランドではおもちゃのピストルを振り回していた12歳の黒人少年が射殺され、ニューヨークでは7月に無抵抗の黒人が背後から首を締め押し倒されて死亡した事件が不起訴となり、アリゾナ州フェニックスでは丸腰の黒人を職務質問中に射殺されたのですから、全米の抗議デモは激化し、ホワイトハウスも事態の鎮静化に乗り出しました。

 日本でも報道されていますから、皆さんも一部のニュースは耳になさっていることでしょうが、実は最近の事件だけが採り上げられているのではなく、人々が各地の警察の古傷を思い出し、人種差別や過剰威力行使を構造的問題として非難しているのです。地域ごとに、少し詳しくご説明しましょう。

★ St. Louis & Ferguson, Missouri
  8/9/2014 Michael Brown(28) 11/24 大陪審で警官不起訴
  8/19/2014 Kajieme Powell(25)
  10/4/2014 Vonderrit Myers Jr.(18)
★ Cleveland, Ohio
  11/22/2014 Tamir Rice(12)
  11/29/2012 Timothy Russell(43), Malissa Williams(女30) 7/14 和解
★ New York, New York
  11/20/2014 Akai Gurley(28)
  7/17/2014 Eric Garner(43) 12/7 大陪審で警官不起訴
★ Phoenix, Arizona
  12/2/2014 Rumain Brisbon(34)
  8/13/2014 Michelle Cusseaux(女50)

セントルイス(ファーガソン)


 大方のことは第99号で書いたので簡単にしておきますが、マイケル・ブラウンが車道を歩いていたのを警官にとがめられて争いの末に射殺、10日後にカジーム・パウエルが「撃て、撃て」と言いながら警官に近づいて行ったら射殺…その1か月半後に、今度はミズーリ植物園に近いさほど犯罪の多くない地域で、18歳の黒人少年が休職中の白人警官に撃たれて死亡しています。

 少年が銃を3発撃ったので正当防衛と警官側は主張していますが、警官は民間警備会社の仕事で巡回していたところで、少年たちを不審尋問した理由も詳しくは分かっていません。少年側の弁護士によれば、ネットにオバマ大統領夫妻をバカにした書き込みをするなど黒人や同性愛者を蔑視してます。

 マイケル・ブラウンを撃った警官は、11月24日の大陪審で不起訴と決まりましたが、その陪審員の構成は、白人9人:黒人3人。評決の根拠はパトカーや警官の衣服に争った痕跡が残っていたことと、数少ない警官に有利な証言1件と警官本人の証言で、マイケル・ブラウンが逃げるのをやめ振り返って手を挙げたというおびただしい証言は採りあげられませんでした。


クリーブランド


 マイケル・ブラウンの大陪審の2日前、11月22日のことでした。クリーブランドのダウンタウンから西に5マイル(8km)の小さな公園で「子供っぽいのが、多分オモチャのピストルを、でたらめに人に向けているんだけど…」という911番通報があり、パトカーが急行。白人警官2名が現場に着いてわずか2秒のうちに、12歳のタミア・ライス少年を射殺してしまいました。911番のオペレーターから警官に「子供」と「おもちゃ」というメッセージは伝えられていなかったそうです。

 クリーブランド警察は2年前に史上最悪の「過剰威力行使」事件を起こし、連邦政府の司法省が詳しい事情調査を進めている最中の出来事でした。2012年11月、夜10時半のダウンタウン…白人警官がエンジンのバックファイアを銃声と聞き間違えたのが引金でした。黒人の男女が乗るたった1台の車を、応援も含め総勢62台のパトカーが25分のカーチェースで追い詰め、車を降りる間も与えず車内の2人に警官13名で137発の銃弾を浴びせて殺したのです。

12/4 CNN(30秒のCMが入ります)

 この件は、今年の7月に警察と遺族が3百万ドルの賠償で和解して決着したところですが、12月4日にクリーブランドを訪れたホルダー司法長官は、真っ先にこの例を挙げて、クリーブランド警察の暴力行使を非難しました。ほかに、捕えられた容疑者が何度も顔をけられた例、犯罪に関係なく発作を起こして倒れていた人を救急車で運ぶ際に、暴れるのでスタンガンで電気ショックを与えて担架に縛り付けた例、150kg級の警官が13歳の少年の足の上に座り鼻血が出るまで顔を殴った例など…。


ニューヨーク


 ホルダー長官がクリーブランドを訪れる前日の12月3日には、ニューヨークのスタテン島で7月にエリック・ガーナーが逮捕される際に心臓発作を起こし死亡した事件で大陪審が開かれ、首を絞めた白人警官を不起訴とすることが決まっています…23人の陪審員(白人13~14人:黒人またはヒスパニック 9~10人)が4ヶ月かけ22人を越える目撃者に聴取した上で下した評決です。

 しかし、この事件の特異性は、ニューヨーク市の検視官が、エリック・ガーナーの死因を首や胸の圧迫による他殺と結論付けていることと、逮捕劇の一部始終がはっきりとビデオ撮影されていて、私たちも含め誰でも今でも見ることができることです。次の動画をごらんください。

12/3 ABC Nightline

 エリック・ガーナーは見ての通りの身長1m91cmの大男で体重160kgの肥満体です。心臓病と高血圧のほかに気管支ぜん息の持病を抱えていたことも死に至った誘因で、現場に駆け付けた救急隊員たちの不手際も際立っていました。

 また、大陪審が不起訴を決めた理由は推測するしかありませんが、とどのつまり、背後から組みついた警官が腕を回したのは、首を締め上げる「チョークホールド」か頭を抱え込む「ヘッドロック」かという格闘技のワザをめぐる議論なのかもしれません。ニューヨーク市警はチョークホールドを禁止していますが、エリック・ガーナーの気管や首の骨は折れていませんでした。

 しかし、多くの市民が警察に反発しているのは、ほんの微罪で無抵抗の被疑者を逮捕するのに死を招くほど乱暴な手段を使った警察が情けないからです。エリック・ガーナーの容疑は、タバコをパッケージから出してバラ売りする通称ルーシー(loosie)と呼ばれる商売をしていたことです。1~2本なら子供でも買えるので、若者をスモーカーにしてしまうリスクが高く、近年、全米の多くの州や自治体がバラ売りを禁止するようになりました。

ニューヨークの事件現場

 タバコが安い州では1本10~25セントが相場ですが、タバコ税が高いニューヨークでは大人相手に1本当たり75セントのパッケージ単位で売られています。タバコ税が低いバージニア州でカートン買いしたら結構儲かるし、罰金はせいぜい交通違反並み…エリック・ガーナーも、こんな違法ビジネスを繰り返していたのかもしれません(本人は否定していました)が、まさか殺されるとは夢にも思っていなかったことでしょう

 話は前後しますが、11月20日にはアカイ・ガーリーが、ブルックリンの公営住宅で、新米の警官に撃たれて死亡しています。時刻は午後11時過ぎ、警官は懐中電灯と拳銃を手に、同僚と二人で階段をパトロール中でした。アカイ・ガーリーは、ただ折悪くドアを開け、警官の足元から14段下の踊り場に入ったところを、おびえた警官に胸を撃たれ死亡しました。アカイ・ガーリーはガールフレンドと一緒で、武器は携行せず犯罪行為にも一切関与していませんでした。


フェニックス


 フェニックスでは、12月2日の晩に麻薬取引の疑いでルメイン・ブリスボンに職務質問をした警官が、小競り合いの末に、銃を持っていると勘違いして射殺してしまいました。

 この事件は犯罪捜査中の事故として百歩譲って許せても、8月14日に精神病患者のミシェール・クーソーが警察による移送中に射殺された事件は、どう考えても納得ができません。患者を守るはずの警官が、患者がハンマーで殴りかかろうとしたので自分を守るために殺したというのですから実に怖い話です。次の動画をごらんください。

12/9 ABC 15 Arizona


全米の事情


 下の地図は、全米の黒人住民の比率を表した地図に、今回、人々の非難の的となっている4つの警察の場所を朱記で示したものです。12ヶ所の青色表示は、2003年に「暴力犯罪取締り法」に基づき司法省に改善を命じられた警察。

全米各地の黒人住民比率と問題が起きた警察(⇒拡大)

 これを見ると、近年に問題が起きている警察は、1950~60年代の公民権運動(人種差別撤廃運動)の時代に黒人を公然と弾圧していた南部の警察ではなく、主に北部の大都市の警察であることがお分かりでしょう。

 これらの都市には1910~30年と40~70年の二度の「大移動」で黒人労働者が流入し、その後も貧困から抜け出せなかった人々が(白人が郊外に移り住み)スラム化した古い住宅街に集まって暮らしています。犯罪も日常的で、それが白人警官の人種差別意識を一層かきたてます。

 「暴力犯罪取締り法」は、1993年にテキサス州ウェイコのカルト教団事件やサンフランシスコの乱射事件が立て続けに起きたのをきっかけに、銃器の規制や死刑制度など各種犯罪の取締りを総合的に見直すことにした法律です。1994年に成立しましたが、その中に、1992年に起きたロサンゼルス暴動の反省を踏まえ、警察の過剰威力行使を規制する条項が設けられました。


1992年 ロサンゼルス暴動


 ロサンゼルス暴動(1992年4月29日~5月4日…動画)のきっかけは、今回のニューヨークのエリック・ガーナーの事件によく似ています。テレビで映像が公開されて全米で注目され、白人警官4名が黒人に暴行(動画)したことが誰の目にも明らかな事件(ロドニー・キング事件)で、無罪判決が出たのです。暴動は、その日のうちに市内サウスセントラル地区で始まり、6日間にわたる略奪と放火や暴行・殺人の末に軍隊が出動して鎮圧に及びました。被害総額は10億ドル。死者は53人で、2千人以上が負傷し、1万1千人以上が逮捕されました。。

 特に韓国系の商店が狙われたのは、日頃から黒人社会と折合いが悪く、ロドニー・キング事件と前後して、韓国系商店の女性店主が、万引きと勘違いして15歳の黒人少女をを射殺する事件が起きていたからです。こちらは有罪でしたが減刑され、わずか500ドルの罰金で済んでいました。

 暴動後に、ロサンゼルス警察は黒人やヒスパニックの警察官を増やすなど対策に乗り出しています。


2001年 シンシナティ暴動


 さて、上の地図で既にご説明しましたが、2003年に司法省は「暴力犯罪取締り法」に基づき12警察に改善命令を出しています。これは、シンシナティ暴動(2001年4月9日~13日…動画)の後始末だったのでしょう。

 暴動事件の舞台は、ダウンタウンの北で歴史的に由緒ある建物が集まるオーバー・ザ・ライン…しかし、住民の8割が黒人で、残念ながら経済的には貧しく犯罪も多発する町でした。警察の過剰威力行使は日常的で、1995〜2001年4月までにシンシナティで黒人ばかり15人、特に2000年11月以降には4人が、警官に殺されていました。中には、エリック・ガーナーのように背後から首に腕をかけられ窒息死した者もいます。

 暴動の発端は、4月7日の午前2時に、19歳の黒人少年ティモシー・トーマスが9名の警官に追い回された挙句、別のパトロール中の警官と出くわし射殺された事件でした。容疑は、交通違反など複数の軽犯罪。ティモシー・トーマスは丸腰でしたが、ダボダボのズボンを引き上げようとして、武器を隠し持っていると勘違いされたようです。

 略奪はあっても大規模な放火はなく、負傷者も数えるほどで済みましたが、被害額は約5百万ドルで、ほかに1千万ドルの間接被害が生じました。暴動後に、市当局は警察に夜間パトロールのトレーニングをはじめ再発防止のプログラムを導入しています。