北米の火山B …次いで氷河期末の大洪水が刻んだU字谷
太古のコロンビア川流域を襲った溶岩の洪水
北米の火山シリーズの記事は、これが第3回(取敢えず最終回)。今回は、人類滅亡の危機とも噂されるイエローストーン国立公園の破局的噴火の可能性について書くつもりだったのですが、調べているうちに、興味の焦点がずれてきました。
アメリカの北西部…ワシントン・オレゴン・アイダホの3州にまたがる巨大なコロンビア高原も、イエローストーンのホットスポット(地球内部のマントル対流の上昇部)の産物であることが分かったからです。
コロンビア高原一帯には、断崖に太古の溶岩をさらした奇景が多数残っています。そこで、いつものように、周辺の景勝地をGoogleマップでまとめてみました。数が多くて、一つ一つ日本語で解説するのは後回しになりますが、各地のマーカーをクリックして、コロンビア高原周辺の写真と動画をお楽しみください。
面積は日本の約半分で厚さ1kmの巨大岩体
コロンビア高原は、いったい、いつどのようにしてできたのでしょう?
…コロンビア川の主流はカナディアンロッキーから流れ下っています。コロンビア高原は、コロンビア川下流とその支流のスネーク川の下流域で、19世紀半ばには西部開拓の幌馬車隊が行き交うオレゴントレイルのルートでした。
Moses
Coulee |
この標高500~1500mの高原は、17~15百万年前をピークに、洪水のように繰返し噴き出した溶岩が固まり、玄武岩が何層にも積み重なって形成されました。面積は日本の本州の7割に相当する16万4千平方km、厚さは平均でも1kmをゆうに上回る巨大な岩体です。
Columbia
Plateau |
それから時代はぐっと下り15~13千年前…今度は氷河期が終わり気候が少し暖かくなり始めた頃に、コロンビア川溶岩台地は二方面から大洪水に襲われました。
現モンタナ州に存在したミズーラ氷河湖は約50年おきに決壊を繰り返し、時速36kmという巨大な濁流が流れ下ってクーリーというU字型の谷を掘削しました。現ユタ州に存在したボナビル湖が起こした洪水は、イエローストーン・カルデラが足跡のように残した溶岩台地に、コロンビア川支流のスネーク川の峡谷を切り込みました。
といっても、溶岩層は断崖やコロンビア川とスネーク川の渓谷でなければ見られません。いったん荒々しい断崖の上に出れば、写真のようになだらかにうねる平和な穀倉地帯が広がっています。
Wallula
Gap |
Dry
Falls |
Frenchman
Coulee |
Drumheller
Channels |
古い海洋プレートのマグマが噴出
Farallon
Plate |
さて、溶岩の洪水は、2百万年の間に3百回以上起きたといわれています。厚さ30mの洪水玄武岩が冷えるには百年以上かかったようで、その間にゆっくり柱状に結晶した玄武岩が林立する奇景も見られます。
溶岩流は、火口の位置や時代でそれぞれに岩石の組成が異なり、4~5グループに分類されています。全体の99%の溶岩は14百万年前までに噴出しましたが、一部の活動は、その後6百万年前まで続きました。
原因には、北米プレートの下に潜り込んだファラロン・プレート(太平洋プレートの東に存在した古い海洋プレート)の一部が欠け落ち、マントルの上昇流に乗ってオレゴン東部の地表を破り900kmに及ぶ亀裂から噴出したという説があります。
Chilcotin
Plateau, Canada |
洪水玄武岩が作った溶岩地帯としては、シベリア台地が有名です。2億5千年前に百万年にわたり溶岩を噴出し、生物の大量絶滅を招いたことで知られています。それに比べれば規模は小さく、あまり爆発を伴わない静かな噴火だったのかもしれませんが、溶岩の量だけでいえば、将来懸念されるイエローストーン国立公園の破局的噴火さえ顔色を失う巨大イベントでした。
カナダのバンクーバーの北にあるチルコティン高原も、時代と規模は違いますが、コロンビア高原とは距離も近く、いったん沈み込んだ海洋プレートが噴き出してできた巨大火成岩岩体と考えられています。
ミズーラ氷河湖洪水とボナビル湖洪水
最終氷期末期の山岳部の湖沼 |
このコロンビア川台地にU字谷や渓谷を刻んだのが、氷河期(最終氷期…7~1万年前)末期に起きた2つの大洪水でした。
ミズーラ湖は氷河の自然堤防でせき止められた氷河湖で、現在のヒューロン湖ほどのサイズでした。氷河の後退に伴い約50年に一度の間隔で繰返し決壊し、そのたびに大洪水を起こしています。洪水の爪痕はスカブランドという溶岩が露出した荒地に残されていますが、逆にたびたび湖水化したヤキマ盆地には、氷河に破砕され果実栽培に適した水はけのよい土壌が堆積しました。
ボナビル湖は現在のグレートソルト湖の昔の姿…当時も氷河湖ではありませんでした。
1万4千5百年前に起きた噴火でベア川の流れが変わり、ボナビル湖に注ぐようになって水位が急上昇。湖の北岸で現在のレッドロックパスにあった溶岩の自然堤防が決壊し、高さ120mの洪水がイエローストーン・カルデラが点々と残して来た溶岩原伝いに、時速110kmでコロンビア川に流れ下りました。たった一度の洪水でしたか、ミズーラ洪水1回分をはるかに上回る大水量の洪水で、アイダホ州トゥインフォールズの周辺やオレゴン・アイダホ州境のヘルズキャニオンなど、スネーク川に深さ180mの峡谷を刻印しました。
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Glacial
Lake Missoula Floods |
Lake
Bonneville Flood |
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