南軍旗を下ろせ!虹の旗を掲げろ!…アメリカを変えた1週間
共和党大統領候補の踏絵に「人種」と「同性愛」!!
6月21~27日の週は、前半に人種差別を助長する南軍旗の掲揚を非難する声が全米で湧き起こり、後半は連邦最高裁で同性婚が認められ、虹の旗に象徴されるLGBT(同性愛者・両性愛者・性自認が身体的性別と対応しない人々)の皆さんのお祭り騒ぎで終わりました。そこで、「アメリカを変えた1週間」と言われています。
南軍旗が人種差別を助長
(6月22日)
6月17日にサウスカロライナ州チャールストンの教会で、21歳の白人青年が銃を乱射し黒人9人が亡くなった事件を覚えておいでですか?チャールストンは南北戦争開戦の地で、今年は南北戦争終戦から150周年。教会は、南部で最古の黒人教会。青年のフェイスブックには、胸にアパルトヘイト(人種隔離政策)時代の南アフリカとローデシア(現ジンバブエ)の旗を縫い付けたジャケットを着たり、星条旗を焼いて南軍旗を掲げたりする憎しみに満ちた青年の写真があふれていましたから、動機は人種差別による憎悪犯罪とすぐに分かりました。
この南軍旗は、これまで南部諸州、とりわけディープサウスでは多くの公的な場所に掲げられてきました。しかし、この旗は南軍最強の北バージニア軍の軍旗をリデザインしたもので、南北戦争時代から継続して掲げられていたものではありません。1948年にトルーマン大統領の人種差別撤廃政策に反対する南部民主党の下で再生し、その後も反公民権運動の象徴として使われてきた歴史があります。
22日月曜日に、サウスカロライナ州知事(女性)は、州議会に州議事堂に掲げられた南軍旗を降ろすよう要請(上下院の決議を経て7月10日に後納)。他の南部諸州でも、是非の議論が沸騰しています。ウォルマート、シアーズ、アマゾン、eベイなど大手小売りチェーンは、相次いで南軍旗の販売を停止しました。
困ったのは、来年の大統領選挙に出馬する共和党候補者です。南軍旗を降ろせといえば南部保守層の支持を失うのは確実で、大方はクチをにごして個人見解を述べず「州ごとに決めるべき」と深入りを避けています。穏健派のジェブ・ブッシュ候補だけは、フロリダ州知事時代に南軍旗を降ろした先見の明をアピールしました。
全米で同性婚が合法化
(6月26日)
6月26日金曜日には、自治領を除く全米で同性婚を認める連邦最高裁の判断が示されました。下の動画は、最高裁の前で判決の瞬間を待つ同性婚賛成派(左)と反対派(右)を映したもの…賛成派は大喜びで、反対派はがっかりしていますね。
これまで既に38州で、同性婚が認められていました。これで残りの12州でも、ただちに同性婚が認められるようになったのですが、保守的なキリスト教徒が多い地域=大統領選挙で共和党が優勢な地域では、そう簡単に受け入れられていないようです。私たちが住むケンタッキー州の場合も、ある自治体では、登記事務をつかさどる書記がバプティスト系教会の牧師さんで、神様の教えには背けないと同性愛者への婚姻証明の発行を拒否しています。
全米合法化直前の状況
■同性婚可 ■同性婚禁止
■同性婚禁止法…司法で不当
■その他 |
日本では憲法24条に「婚姻は両性の合意のみに基いて成立」とあり、単純に読むと同性婚を禁じているようですが、実はこのくだりは結婚は親が決めるものではないという趣旨で、必ずしも同性婚を否定するものではないという説もあります。日本でも、同性婚の是非が問われる日が近づいてきているのかもしれません。
五輪金メダリストのカミングアウト
冒頭に、虹色に象徴されるLGBTの人々を、同性愛者(Lesbian
& Gay)や両性愛者(Bisexual)および性自認が身体的性別と対応しない人々(Transgender)とカッコ書きしましたが、トランスジェンダーにはよい日本語訳が定着していないようです。性同一性障害という病名はありますが、性自認の違和感に悩んでいない人々まで障害者にしてしまうわけにはいきません。トランスジェンダーは同性愛者や両性愛者の場合もありますが、彼らが異性愛者であっても不思議はありません。
6月のアメリカのモーニングショーは、オリンピック陸上十種の金メダリストでトランスジェンダーをカミングアウトしたブルース・ジェンナーが、ケイトリンと名を変え、ドレスを着てポップカルチャー誌バニティフェアの表紙を飾った話題で始まりました。今から思えば、6月は、全米で「人種」と「性愛や性自認」による差別が注目される1ヶ月でした。
ジェンナーは、65歳の異性愛者。つい5月までは、ジェンナーと実子2人に昨年別れた前妻とその連れ子4人を加えた大家族の生活に密着するバラエティTV番組に出演していた有名人ですから、たいへんな騒ぎ。ABC看板キャスターのダイアン・ソイヤーがインタビューしたニュース番組20/20の視聴者は、2千万人を超える大記録を打ち立てました。
人種同一性障害?
ただの黒人なりすまし?
次にモーニングショーをにぎわしたのは、ワシントン州東部で人口20万人の地方都市スポケーンで、全米黒人地位向上協会(NAACP)の支部長を務めていたレイチェル・ドレザル。37歳の彼女のフェイスブックには黒人の父親らしい写真が掲載されていましたが、白人の両親が名乗り出て、彼女が肌を染め黒人になりすましていることを暴露したのです。
前代未聞のスキャンダルに、全米のマスコミが注目しました。ドレザルは、ジェンナーのトランスジェンダー告白を引用して、自分はトランスレーシャル(人種自認が身体的人種と対応しない?)だと弁明します。しかし、幼年時代の彼女を知る両親が断定的に否定。さらに、虚言癖や彫像の盗作など不利な前歴が次々に明るみに出て、15日には支部長辞任に追い込まれます。18日には市警のオンブズマン(外部監視委員)の職も解任されてしまいました。
白人サイドからも黒人サイドからも非難の嵐で、人種を偽装して人々をだましてきたドレザルをかばう声は全く聞かれません。ましてや性自認の問題と一緒くたにされたLGBTの人たちの怒りは心頭。
アメリカで、黒人女性は一般に、黒人と女性に対するアファーマティブ・アクション(差別是正のための優遇措置)により進学や就職で二重の恩恵を得られることがあります。白人や男性の逆差別を招くという観点から、アファーマティブ・アクションに反対する人々も多い中、人種問題に余計な波紋を投じた事件でした。
メキシコ人不法移民は強姦魔!…トランプ候補
ただでさえ候補が乱立している共和党大統領予備選挙に、6月16日、ミスユニバースとミスUSAの実質オーナーで不動産王のドナルド・トランプが立候補。第一声で「メキシコ人は麻薬や犯罪を持ち込んでる。メキシコ人不法移民は強姦魔だ。(大統領になったら)国境に巨大な壁を築き、代金はメキシコに払わせてやる」とぶち上げ、内外のヒスパニック社会の怒りを買っています。
早速、スペイン語放送局のユニビジョンが、ミスユニバースの放映権を解約。7月上旬までに、メキシコに加えコスタリカとパナマが、ミスユニバースをボイコットすることを決めています。現ミスユニバースでコロンビア出身のポーリーナ・ベガさんも、トランプを非難しました。
2003年から毎年ミスUSAを放送していたNBCも、7月12日の決勝を目前に、突然、トランプとの関係を断ちます。ミスUSAは数々の女優や歌手、ニュースキャスターを生んできた芸能界への登竜門ですから、栄冠を目指し州予選を勝ち抜いてきた51人の代表も気が気ではなかったことでしょう。結局、決勝は、ケーブルTVの芸能専門チャンネルが放送して今年も何とか無事終了しました。
デパートのメーシーズも、トランプ・ブランドのファッショングッズの販売を取りやめてしまいました。
共和党大統領候補の間では、これまでトップを走っているジェブ・ブッシュ候補が、真っ先にトランプを非難しました。しかし、トランプは「ブッシュは妻がメキシコ系だから、不法移民が好きで当たり前さ(JebBush
has to like the Mexican Illegals because of his wife)」とツイッター(その後削除)で言い返す始末。それどころかトランプの発言を支持する候補もいて、トランプは不法移民の取締り強化を願う人々の期待の星になってしまいます。7月上旬の世論調査では2位で、ブッシュの人気に肉薄していました。
これまで共和党大統領予備選挙に立候補、または7月中に立候補を予定している候補者は次の16人です。数字は最新の世論調査の支持率で、カッコ内は7月上旬の2件の世論調査の結果です。
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Jeb
Bush
元FL州知事
17.80%
(15%/16%)
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Ben
Carson
脳神経外科医
8.50%
(6%/9%)
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Chris
Christie
NJ州知事
2.80%
(2%/8%)
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Ted
Cruz
TX州法務長官
5.00%
(9%/7%)
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Carly
Fiorina
HP社前CEO
1.80%
(1%/1%)
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Lindsey
Graham
上院議員(SC)
0.80%
(0%/2%)
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Mike
Huckabee
元AR州知事
7.50%
(7%/6%)
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Bobby
Jindal
LA州知事
1.50%
(2%/2%)
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John
Kasich
OH州知事
1.50%
(1%/2%)
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George
Pataki
元NY州知事
–
(0%/1%)
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Rand
Paul
上院議員(KY)
7.30%
(6%/7%)
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Rick
Perry
TX州知事
3.30%
(2%/4%)
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Marco
Rubio
上院議員(FL)
8.50%
(6%/4%)
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Rick
Santorum
元上院議員(PA)
2.00%
(2%/0%)
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Donald
Trump
Trump社会長
9.30%
(13%/14%)
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Scott
Walker
WI州知事
9.80%
(7%/10%)
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ジェブ・ブッシュは、言わずと知れたブッシュ前大統領の弟。ハッカビーとサントラムは、前回に続き二度目の挑戦です。
オバマの医療改革に反対し税負担の軽減を求める茶会(ティーパーティ)系の候補は、ウォーカー、ルビオ、クルーズ、ポールの4人。茶会なら、筋からいうと、財政上の理由で米軍の海外撤兵を求めるはずですが、そこまで言うのは自由至上主義のポールだけ。ウォーカーは逆に「強いアメリカ」を主張しています。
カーソンは黒人で、ジンダルはインド系、ルビオはキューバ系。奥さんがメキシコ系のブッシュも含め、マイノリティ(非白人)の支持を集めやすい候補がいる中で、トランプのように移民を排斥するような候補もいます。候補者の乱立は、共和党支持層の価値観の多様化を、そのまま反映しているものと思われます。
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