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2016年4月15日 (第118号)

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ガスや石油採掘の随伴水を地下深く廃棄⇒古活断層が覚醒

 オクラホマや全米21地区で人災型地震が頻発!!

 3月28日にUSGS(アメリカ地質調査所)が、「オクラホマはカリフォルニアやアラスカ並みに地震で被災するリスクが高まった」として下(右)の地図を公表したので大騒ぎになっています。

天災型の地震リスク(⇒拡大)

人災型も含む2016年の地震リスク(⇒拡大)

アメリカ中央部の地震件数(⇒拡大)

 オクラホマだけではありません。右の表のように、アメリカ中央部でマグニチュード3以上の地震件数は2009年からうなぎ上りに増え、それまでの月平均2件から10倍以上の月24件ペースと地震が頻発するようになりました。

 特にオクラホマは昨2015年に月平均74件というハイペースで揺れ、今年も2月半ばまでに早くも133件を記録…うち1件はM5.1で、M4級も8件ありました。

 地震が増え始めた2009年は、前年に天然ガス価格が高騰して採算が好転したために、シェールガスの生産が一気に増えてきた頃です。シェール石油の開発も、歩調を合わせて伸びてきました。一体、シェールガス・石油の開発と地震は関連があるのでしょうか?


フラッキング=地震犯人説


 シェールガスやシェール石油開発には、フラッキング(水圧破砕法=英語ではHydraulic fracturing)という手法が使われますが、ご存知でしたか?自噴しないので、ガスや石油が眠る地下の岩体に特殊な砂と化学剤を含む超高圧水を注入して亀裂を生じさせ、人工的に噴出させる技術です。

 アメリカがシェール景気に湧く中、フラッキングによる地下水汚染を懸念する声も一時は低くなっていましたが、近頃は国際石油価格の下落でシェール開発の有難みが薄れ、フラッキングで注入した超高圧水が地震を引き起こす悪役として、世間から疑われるようになっていました。


真犯人は地下水を戻す注入井


 しかし、調べてみると地震の真犯人は、(実はシェール系に限らず)一般にガス・石油を地下から回収する際に副産物として噴出する随伴水を、再び地下に戻して捨てるための注入井(Injection Well)であることが分かってきました。

 そもそも排水が目的の井戸があるとは、国土が狭く水は浄化して海や川に流す日本で育った私にはピンとこない話でしたが、アメリカでは生活排水や工業廃水を地下深くに埋め戻す技術が発達しています。

 左図は注入井の図解ですが、一般的に地下では、砂層や礫層などの透水層と、粘土や固結した岩盤などの不透水層が、交互に繰り返し積み重なっていて、不透水層と不透水層に挟まれた透水層が、すなわち地下水をたたえる帯水層です。

 左の井戸は有害物質も含む工業廃水の注入井で、平均で地下1200mの帯水層に廃棄されます。右は浄化した生活排水の注入井で、通常は地表に最も近く雨水をたたえる透水層の一つ下の帯水層に廃棄されます。

 この図にはありませんが従来の天然ガスや石油は、砂岩の帯水層に分布し、上の地層の重みが圧力となって自噴します。シェールガスや石油を含む頁岩(シェール)の層は不透水層で、フラッキングで注入した超高圧水により頁岩層をひび割れさせガスや油分を回収する仕組みです。

 どちらの場合もガスや石油の副産物として、多いと同量程度の随伴水が回収されますが、この水は有害物質を多量に含む塩水で有効利用できません。オクラホマの場合は注入井で地下2100mの14億年前の地層に捨てていましたが、その廃水が地層の水圧を押し上げ、本来なら数千年に一度しか動かない活断層を滑りやすくしてしまったのです。その注入量たるや、最も地震の多い三地域では1997年に年240万キロリットル(東京ドーム約2杯分)だったのが、2013年には20倍の4800万キロリットル(東京ドーム約40杯分)に増えたそうですから、大地も驚くに違いありません。

 随伴水は、ガスや石油を採掘した元の地層に帰してあげるのが水圧を変えずに済む最良の方法で、オクラホマでも一部では既に実施されているそうですが、仮に今すぐ全ての注入井を止めても、再び吸い上げて地層の水圧を下げない限り地震はなかなか減らないそうです。


地震保険の効力


オクラホマシティ東方で地震(2011年…M5.6)

 今年2月現在のオクラホマの地元紙の記事によれば、地震保険は一般的に家屋保険(いわゆる火災保険)と別売りです。また、地震保険を扱っている保険会社100余社のうち16社は人災型地震をカバーしないと言明していますが、明確に天災と人災を分ける基準があるわけではありません。

 そこで州議会では、天災型・人災型を問わず全ての地震を地震保険の対象とするよう保険会社に義務付ける法案や、保険会社が人災型地震を引き起こした注入井の所有者に損害賠償を請求する権利を認める法案、あるいはカリフォルニア州のように州が管理する再保険制度の制定などについて議論することになりました。


全米の人災型地震多発地域


 オクラホマほどではなくても、全米にはこうした人災型の地震リスクにさらされている地域が21ヶ所あります。念のため、下の地図で黒く囲まれた地域をご確認ください。日本人の皆さんも少なからず住んでいるテキサス州ダラス近郊のアービングも、その一つです。

 下の地図で「地震と関係ある注入井」とあるのは一つ一つ地質学的に調査した結果ではなく、半径15km以内でマグニチュード2.5以上の地震が起きた注入井を自動的に列挙しただけですから、もともと天災型の地震が多い地域では濡れ衣を着せられた注入井もあることでしょう。

 赤い点が集中しているのにUSGS(アメリカ地質調査所)が人災型地震多発地域に指定していない地域がありますが、私の推測では、おそらく注入井と地層の関係で人災型地震は起きにくいとか何か根拠があっての判定だと思われます。