ソーシャルセキュリティ・ナンバーは、名前の通り、社会保障(社会保険)を管理するための番号ですが、戸籍制度のないアメリカやカナダで、個人を特定する目的で頻繁に使われる便利な番号です。


社会保険を管理する番号


 私は、日本で25年以上、アメリカでも10年以上働いてきたので、日米両国の年金を受給する資格を持っています。

 アメリカの年金の支給開始は(私の年代だと)66歳からですが、年に1回、政府から、前年の納付額と将来の支給予想額を丁寧に説明した手紙が送られてきます。さらに、今は個人で高い医療保険に加入していますが、65歳になるとメディケアという無償の国営保険でカバーしてもらえるようになります。

 この仕組みを管理するための番号がソーシャルセキュリティ・ナンバーで、もともとは身分証明代わりの番号ではありませんでした。

 しかし、日常生活では、何か新しい契約をする際だとか、電話で本人確認をする際だとか、実に、ことあるごとに番号を聞かれます。といっても、お役所も含め、普通はカードの提示を求められることはありませんから、ご自分の番号を暗記していば、日頃、カードを持ち歩く必要はないでしょう。 


身分証明の役割(戸籍や住民票がない)


7世紀…日本では戸籍に基づいて口分田が支給されていました。

 日本とアメリカの戸籍制度は大きく違います…というより、戸籍は中国や日本など東アジアにあった「家」を中心とする特殊な制度で、今は、日本のほかに韓国と台湾にしか存在しません。

 しかも、ヨーロッパには、個人単位や(筆頭者なしの)家族単位でも戸籍的な記録を管理している国が多いのですが、アメリカやカナダには戸籍(本籍)も住民票(現住所)の類が一切ありません。

 アメリカやカナダで公的に管理される個人情報は、出生(Birth)、死亡(Death)、婚姻(Marriage)、離婚(Divorce)の4種目。しかし、それぞれの届出が、別々に各地の自治体で受理されるだけで、日本の戸籍のように、皆さんが、いつどこで生まれ、いつ誰と結婚して、別れて…という「個人史」を1ヶ所で管理する仕組みがないのです。

 しかし、1936年の社会保障制度の誕生と共に始まったソーシャルセキュリティ・ナンバーが、その後、出生証明書(Birth Certificate)の申請と一緒に病院で受理され、生まれたばかりの赤ちゃんに与えられるようになりました。

 そこで、ソーシャルセキュリティ・ナンバーが、公的に個人を特定するのには最も優れた手段となったのです(ただし、産業革命前の穏やかな暮らしを守るアーミッシュなど、社会保障そのものを否定していて、ソーシャルセキュリティ・ナンバーなしに暮らしている人たちがいるところも、実にアメリカらしいところです)。

 ソーシャルセキュリティ・ナンバーは、企業が給与を支給する際に必要ですから、アメリカやカナダが初めての赴任者は、総務の人に指示されて、言われるままにソーシャルセキュリティ・オフィスに出向くわけです。


個人納税者証明番号


 以前は、駐在員のご家族や留学生にも、簡単にソーシャルセキュリティ・ナンバーが与えられていましたが、2001年9月11日の同時多発テロ事件を機に管理が厳しくなって、今は、就労不能ビザの保有者にはソーシャルセキュリティ・ナンバーが与えられなくなってしまいました。

 その結果、困るのは運転免許証を取る際の手続きです。ソーシャルセキュリティ・ナンバーのない外国人には、代わりに個人納税者ID(Individual Taxpayer Identification Number)を求める州が増えました(もっとも、どこの国でもお役人は自己本位なのか、IRS(連邦歳入庁)のホームページにはIDを納税以外の目的に使うのはおかしいと書いてあります)。

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人々のアメリカンドリームはエリス島(ニューヨーク)の移民管理局で始まりました。(1902年)

 さて、アメリカ人にとって戸籍謄本や抄本に当るのは出生証明書(Birth Certificate)です。帰化してアメリカ国籍を取った人の場合には、帰化証明書(Certificate of Naturalization)が与えられます。紛失しなければ、日本のように取り直すことなく、何度でも使えるもののようです。

 アメリカで引越しをしても、新住所で転入届を出す事務手続きがありません。その代わり、州をまたいで転居の場合、運転免許証は一定期間内に切り替えなければならない決まりがありますから、たいていの人は自治体の事務所に出向いて、ついでに選挙権の登録も済ませてきます。

 日本では、1968年の佐藤内閣時代に国民総背番号制の検討が始まって未だに日の目を見ていません。その都度、個人のプライバシー擁護の立場から導入が見送られてきているようですが、個人のプライバシーを守るなら、戸籍や住民票に詳しい家族情報が記載されていることの方が、むしろ、問題なのかもしれません。