アメリカの 「育児と教育」・e-ガイド(印刷ページ

⇒元のページに戻る

幼児の車内置き去り熱中症事故

★多くは最愛の両親のうっかり!! ★「チャイルドシートは後部座席」で増加


多くは最愛の両親のうっかり!!


 日本でも時々耳にする痛ましい事故ですが、アメリカでは、最愛の赤ちゃんを車の中にうっかり置き去りにして熱中症で死亡させてしまうケースが相次いでいます。車が日常生活に溶け込みすぎた結果でしょう。皆さんの身にも起こりかねない深刻な事故のケースについてお伝えします。

 わが家の近所でも、1999年7月に、看護士の資格もあるベビー・シッターが「ちょっと買物をするつもりで」生後11ヶ月のブライアンちゃんを車に2時間置き去りにして死に至らしめました。一緒に車中に残した自分の子供だけは助かったのだそうです。これを契機に、州議会は、8歳以下の子を車に置き去りにして死亡させた場合は、無条件に過失致死罪を適用する「ブライアン法」を制定しました。

 同じくケンタッキー州レキシントンで2005年8月に起きた事件にはアルコール中毒が絡んでいます。父親が帰宅途中にビールやウォッカを飲んで、自宅前の車に9ヶ月の息子を置き去りにしてしまいました。判事は、それでも情状を酌量し温情判決を下しましたが、わずか半年後、死んだ子の誕生日に父親はまた飲んだくれアルコール中毒矯正プログラムを休んでしまったのです。父親は執行猶予を取り消され今は7年の懲役刑に服しています。

 気の毒なケースもあります。サウス・カロライナ州では、先月、ベビー・シッターに「ドタキャン」された母親が、仕事か子守りか二者択一に追い込まれ、最悪の道を選んでしまいました。母親の勤務は午後3時から11時の2番シフト…乾電池で動くポータブルの扇風機と食べ物や飲み物を持たせて、4歳の息子と1歳の娘を車の中に残しました。休んだら解雇されるものとおびえていて、上司にも同僚にも事情を話せなかったそうです。

 さて、ここまでご説明した3つのケース…いずれも悲惨で軽重を比べようもありませんが、愛する子供を自分の「うっかりミス」で死なせてしまった親御さんの心中はさらに察するにあまりがあります。2002年5月、バージニア州の男性が1歳9ヶ月の愛娘を死なせてしまった例もそうです。その日、母親と長女はガンに侵された外国の親族を見舞いに旅行中で、父親はひとりで12人の子の面倒を見ていたのだそうです。娘を学校に迎えに行ったり、息子をサッカーに連れて行ったり、エアコンの修理屋さんと話したり、昼食を作ったり、洗濯したり、庭のフェンスを直したり、次から次へ仕事が尽きず、いつの間にかお嬢さんを後部座席のチャイルドシートに座らせておいたことを忘れてしまったそうです。

 裁判で、陪審員の一同は1年の懲役刑が妥当と主張しましたが、判事は、7年にわたり、毎年1日の服役と、愛娘の命日の頃に献血キャンペーンを催す義務を課すという温情こもった粋な判決を下しました。以来、献血キャンペーンは、この大家族の一家総出のイベントとして続いています。


「チャイルドシートは後部座席」で増加


 1995年をピークに助手席のエアバッグによる死傷事故が相次ぎ、幼児は後部座席に座らせるよう法制化されましたが、皮肉なことに、子供が視界から消えたために親の注意が散漫になり、置き去り事故が増える結果を招いたようです。実際、それまでは年平均11件だった置き去り死亡事故が、98年から2006年には年平均36件と3倍以上にはね上がりました。

 つまり、「うっかりミス」が事故原因の多くを占めているのです。私の場合、「自動運転モード」と呼んでいるのですが、市内の道路を運転しながら考えごとをしていて、「その日の目的地」ではなく「いつもの目的地」に何気なくハンドルを切ってしまうことがあります。

 カリフォルニア州の男性は、生後10ヶ月の息子を、週に2〜3回、出勤途上で保育園にドロップしていました。その朝は定例の日課に横槍が入って少しいらいらしていたのかもしれません。交差点を保育園とは逆方向に曲がり、寝入った息子さんを車に残してそのまま出勤してしまったそうです。失業中のテキサスの男性は、お嬢さん二人を保育園に届けてから臨時の日雇い仕事に行くつもりで家を出ました。上の娘をドロップして生後6ヶ月の下の娘を別の保育園に連れて行く途中、就職希望中の会社から待ちに待っていた電話が入りました。たまたま道路が工事中で、男性は電話で話を続けたまま迂回したのですが、次に郵便局に立ち寄ったときには赤ちゃんのことをすっかり忘れてしまっていたのだそうです。

 アメリカの共稼ぎの家庭では、上手に仕事と子供の世話を両立させているつもりでも隙が生じる瞬間があるのかもしれません。日本人駐在員の皆さんの家庭で同じように心配なさることはないかもしれませんが、奥様が病気になった場合など異例の事態に際しては、職場の同僚などにお願いして、できるだけ無理のない子守りをなさってください。