プロテスタントとカトリック ★プロテスタント主流派と福音派 ★監督制教会 ★長老制と会衆制 ★南部の福音派とメガチャーチ ★WASP ★アメリカ流カトリック ★モルモン教 ★エホバの証人 ★アーミッシュとメノナイト ★クエーカーとシェーカー プロテスタント(新教)は、ご存知のように、16世紀の宗教改革で始まった反カトリック諸宗派の総称です。ローマ法王の権威を否定し、聖書(福音)を唯一の信仰の拠り所とする点では各宗派が共通していますが、教義と教会運営の面で、それぞれに違いが見られます。 プロテスタント主流派と福音派 厳格なキリスト教徒が政治に与える影響が顕著になり、最近は、プロテスタントを、主流派と福音派(Evangelicalism)に分けて説明するのが普通になってきました。福音派の人々は原理主義的で、かたくなにアメリカのキリスト教文化を守ろうとしますが、主流派の人々は比較的リベラル(柔軟)です。 くだけた言い方をすると、
監督制教会 まずは、主流派の監督制という教会運営をしている宗派からご案内しましょう。 プロテスタントには、「万人祭司」という言葉が象徴するように、特権的聖職者の存在を否定する考え方がありますが、ルター派やメソジスト派と聖公会には、カトリックに似た中央集権的な組織があり、各教区で司教を頂点にして、司祭や助祭が叙任されます。 ルター派は、キング牧師もファーストネームとミドルネームをあやかったマルティン・ルターがドイツで始めた元祖プロテスタント宗派です。 メソジスト派は18世紀にイギリスで生じた宗派ですが、教義はルター派に近く、ともにドイツ系アメリカ人が多い中西部で広まりました。 聖公会は、イギリス国教会のことで、植民地時代に南部の公認宗教でした。ヘンリー8世が、自分の離婚問題でローマ法王と対立して創設した宗派ですから、厳密な意味でプロテスタントとは言い難いところがあります。 長老制と会衆制 改革派は、スイスでカルビンが確立した新教です。キリスト教信者でない私は、教義についてあれこれ解説する立場にはありませんが、ルター派に比べて原理主義的とだけはいえるでしょう。 改革派は、スコットランドで長老派と呼ばれる宗派になり、アメリカに入りました。改革派や長老派は、信者の選挙で民主的に選ばれた治会長老(ruling elder)が集まって長老会で教会運営の方針を決め、牧師さんと共に指導に当たります。上部組織の長老も、その上の組織の長老も、選挙で民主的に決められます。 イギリス(イングランド)では、国教会に反発する清教徒分離派となりました。清教徒分離派には会衆派とバプティストやクエーカーの3派があり、会衆派はマサチューセッツ植民地を中心に発展しました。 長老制の代議員制度さえ、神様の前では誰もが平等という「万人祭司」の教義に反するという考え方。教会運営は自主独立で、上部組織や他の教会に干渉されることがありません。牧師さんは信者の総会で選ばれますが、たまたま教会の仕事を託されるだけで、平信者と身分的には全く変わりません。個人主義的で民主主義志向が強いアメリカ人には、実に説得力のある制度です。 厳格な宗派には、おうおうにして排他的傾向があり、マサチューセッツ植民地では「魔女狩り」やクエーカーなど他宗派の信者に対する迫害が起こりました。 南部の福音派とメガチャーチ
バプティストは、主流派の会衆派とは同じ清教徒分離派の仲間で、教会運営は共通です。神の前に人は平等で、植民地時代には奴隷制度を否定していましたが、独立戦争後に南部社会に同化する過程で保守化し、北部のバプティストともたもとを分かち奴隷制度を是認しました。今でも聖書の記述を文字通りに信じてダーウィンの進化論を否定する人々も多く、現代科学に寛容ではありません。 生き物は、英語で「クリエーチャー」…全ては神様がお作りになり、ノアの方舟に乗って生き延びたものばかりですから、ヒトがサルから進化したなどという学説は間違いと考えている人が意外に多くいます。 バプティストは、キリスト教に入信する洗礼の儀式は、親が乳幼児にさせるものではなく、信仰に目覚めた後に本人が望んで受けるものという考え方をする人々です。 ペンテコステ派は、メソジスト派の中から生まれた福音主義的な宗派で、信者で神秘的な体験を分かち合うためか数々の賛美歌やゴスペルを生み、現代音楽に強い影響を及ぼしてきました。 実際、メガチャーチのライブやケーブルテレビの実況で、カリスマ牧師の説教に心を打たれ、プロが歌うゴスペルに聞き惚れる信者の多くは、自分がバプティストなのかペンテコステ派なのか考えたこともないに違いありません。福音派だから万事に保守的というわけでなく、メガチャーチでは、経営者(=牧師さん)がお客様(=信者)に喜んでもらえるショーを競い合っています。加熱する宗教ビジネスを苦々しく思う人たちに、「ディズニー・チャーチ」と呼ばれるのも当然です。 福音派の信者には、特に「本物のキリスト教信者はここにあり」という自負を持った方が多く、宗派を尋ねても「キリスト教です」とか「宗派はありません」と回答されることがあります。 WASP WASP(White Anglo-Saxon Protestant=プロテスタントのアングロサクソン系白人)という言葉をお聞きになったことはありませんか?1960年代から盛んに使われるようになった言葉で次第に死語化してきていますが、アメリカの支配階級になる条件を指して使われたことがありました。 アングロサクソンというのは、5世紀の初めドイツ北部からイギリス南部のイングランド地方に移住してきた民族で、厳格な意味ではイギリス人の血にも特別多く流れているわけではありません。実際、アメリカで名門とされる家系には、非アングロサクソン系も多数あります。
とすると、「WAS」のホワイト-アングロサクソンとは出自がカトリック国以外の白人で、「P」なしでもプロテスタントの白人と同義語と見ていいのでしょう。 アメリカ流カトリック 17〜18世紀のアメリカで、メリーランド植民地だけはカトリックのボルチモア卿ジョン・カルバートに勅許された植民地。さらに、ミシガンやイリノイからミシシッピー川を下りニューオリンズに至るフランス領ルイジアナでは、カトリック教徒が保護されていましたが、その他の白人コミュニティで、カトリックは異端扱いされていました。
カトリック教徒の中で、アメリカに来て最初の「差別」に出会ったのは、1820年代から急増したアイルランド系移民でした。アイルランドはイギリス(イングランド)の事実上の植民地(⇒アイルランドとイギリスの歴史)で、さげすんで見られていました。1850年代にはノウ・ナッシング(Know Nothing)というアイルランド系移民排斥の秘密結社が存在したほどです。 このような厳しい環境で、カトリックのアメリカ化に努めたのが、1789年、アメリカで初の司教となったのがアイルランド系のジョン・キャロルです。アメリカのカトリック教会は、ローマ教皇から一定の自主独立性を得て、アメリカ風の教会運営をすることができるようになります。ラテン語の祈祷は廃止されて、聖書も英語が正本となりました。プロテスタントをお手本にして、教会には信者の自治方式が採用されました。 今では、人工中絶の是非など倫理的な問題で、ローマ法王の言葉に従うべきと考えるカトリック信者は極めて少ないそうです。むしろ、聖書一辺倒の福音派プロテスタントに比べれば生活信条も柔軟で、政治的にはリベラルな民主党を支持する人々が大勢います。 WASP以外で大統領になったのは、第35代でアイルランド系カトリック信者のケネディが最初…ケネディ大統領がキング牧師の公民権運動を支持し、人種差別の解消に努めたのは偶然ではありません。1963年のケネディ暗殺から46年を経て二人目の非WASP大統領が誕生しました。第44代で黒人のオバマ大統領です。 モルモン教 モルモン教(末日聖徒イエスキリスト教会)は、1827年、当時18歳のヴァージニア州の少年ジョセフ・スミス・ジュニアが、旧約、新約に続く、アメリカを舞台にした第3の聖書「モルモン書」を近所の丘で掘り出した事件から始まります。キリスト教徒から見れば、素性の怪しい聖典を敬う異端の宗派です。 信者は迫害を避け、1844年…西部が全く開拓されていない時代に、荒野のユタの地に集団移住しますが、1890年に神のお告げでモルモン教が一夫多妻制を廃止するまで、ユタ州は合衆国に編入を認められませんでした。今でも60〜70%の州民がモルモン教徒です。 優秀なビジネスマンも多く私も一緒に仕事をしましたが、モルモン教徒は、飲酒、喫煙ばかりかコーヒーやお茶などカフェイン飲料を禁じているので、お付き合いしている間にすぐ分かります。信者の若者には世界各地への布教活動を勧めているので、日本語を覚えて日本でタレントになった人も大勢います。 2012年の選挙で共和党の大統領候補になったロムニー元マサチューセッツ州知事もモルモン教徒で、ソルトレイク冬季五輪を成功させた立役者でした。ロムニーの相棒の副大統領候補はカトリック信者で、結果的に見ると、福音派プロテスタントが右傾化し過ぎて予備選を勝ち残れない時代が来ているのかもしれません。 エホバの証人 布教に熱心な点は「エホバの証人」も同じ…「ものみの塔(Watch Tower)」という雑誌を持って二人一組で戸別訪問します。 信者が輸血を拒否することで知られていますが、旧約聖書のノアが方舟で洪水を生き延びた場面で神様に「生き物を食べるのはよいが、血(=魂)が残っている肉を食べてはならない」と言われたことが根拠です。偏見を助長するのは本稿の趣旨ではありませんが、ほかにも兵役や葬儀の一部儀礼を拒んだりすることから、世間から異端視される傾向があります。 アーミッシュとメノナイト アーミッシュとメノナイトは、中世風の地味な衣服を着て外出も馬車でお出かけという時代錯誤の生活をしています。スイスで生まれた改革派の流れを汲むアナバプティスト(=形だけの幼児洗礼を否定し自分の意思で再洗礼を受ける)のドイツやオランダ系移民の子孫です。 ペンシルバニアやオハイオ・インディアナに多数住んでいます。謙虚と平穏が美徳で、家でお祈りをするので教会はありません。 電気など文明の利器を使わないのは、楽をして、村人が勤労により支え合う理想郷が失われないよう警戒してのこと。ひっそりと暮らしているのですが、好奇心旺盛な観光客の餌食にされている村落もあるようです。 クエーカーとシェーカー クエーカーは、会衆派やバプティストとともに清教徒分離派の一派。「友愛」を重んじ、アーミッシュほどではなくても質素な生活を尊ぶ人々です。 シェーカーは、その中で、キリストの再臨を信じる分派です。クエーカーもシェーカーも、身体を「振るわせる人」という意味で名付けられました。集団礼拝に神秘主義的な傾向が見られるそうです。 シェーカー・タウンは、私たちが住んでいるケンタッキー州レキシントンの近郊にもあります。質素、勤勉に加え、男女平等と独身主義がモットーの共同体です。家具はシェーカー教徒の伝統的なビジネスで、日本でも珍重されています。博物館見学、お食事、家具作りショー、シェーカー音楽、ケンタッキー川の遊覧船がフルコースです。 |