銃規制と合衆国憲法


 日本国憲法第9条「戦争放棄」の解釈については、政治家から子供たちまで、かれこれ60年も禅問答を繰り返してきましたが、アメリカ憲法でも、修正第2条「武装の自由」の解釈を巡って、建国以来2世紀を超える論議が続いているのはご存じですか?

Trigger lock on a revolver

トリガー・ロック(引き金錠)

 2008年6月26日、首都ワシントンのピストル所持禁止条例について、連邦最高裁が違憲判断を下しました。「(市民が)家庭内で自己防衛のために(ピストルも含め)銃を所持し使用する権利を奪ってはならない」のだそうです。

 これまでのワシントンの条例では、ショットガンやライフルなら、トリガー・ロックをかけるか弾丸を抜いた上で家庭内に所持してよいとも定められていましたが、判決では、銃の使用を妨げる条件を付与することも違憲に当たると説明されています。条例は、家庭内暴力による事故を防止する効果もあっただけに、歯止めがなくなった後の結果が危惧されます。

 連邦最高裁の判決は9名の判事(うち一人は長官)の多数決で決まります。判事は上院の助言と同意により大統領が任命することになっていて、現在は、共和党大統領(フォード/レーガン/父ブッシュ/現ブッシュ)が指名した7名と民主党大統領のクリントンが指名した2名…思想傾向的には、保守派4名、リベラル4名、保守色の強い中道1名に分かれるというのが世間の定評。今回の判決も、保守+中道とリベラルの5対4、ギリギリの評決によるものでした。

 いったい修正第2条には何が書かれているのでしょうか?そもそも修正条項というのは第1条「信教、言論等の自由」から第10条まであって、アメリカ市民の基本的人権を定めている憲法の中でも最も重要な部分の一つです。

原文      A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the People to keep and bear Arms, shall not be infringed.

翻訳例 秩序ある民兵は自由な国家の安全保障に欠かせず、市民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない。

独立戦争の民兵記念碑

 民兵(Militia)というのは日本人には耳慣れない言葉ですが、国の正規軍に属さず、緊急時に武器を取って起ちあがる市民部隊のこと。すぐ駆け付けることから「ミニットマン」と呼ばれた民兵が、独立戦争の緒戦レキシントン-コンコードの戦いで植民地軍の勝利に貢献したのが1775年、修正第2条ができたのは4年後の1779年です。そもそも、条文は、誰でも無条件に武装していいのか、それとも民兵としての武装を前提に認めているのか、必ずしも明快ではありません。

 ところが、ご先祖様のカウボーイ精神を引き継いで「武装の自由」を主張する保守派の人々にとって修正第2条の文章はもってこい、いつの間にか水戸黄門の印籠のように使われるようにになってしまいました。乱射事件が多発して運の悪い人たちが何人死亡しようと、なかなか銃砲の取締りが厳しくならない理由です。

 とはいえ、今回の判決は家庭内での銃器の規制に関するもので、戸外での武装まで無制限に認めているわけではありませんから、少しはご安心ください。連邦法では、当たり前ですが、犯罪暦のある者には銃砲所持許可は下りないとかセミオートマチックのマシンガンは個人に売ってはいけないとか決められています。

武器を(非公然に)携行する許可証の発行基準

   全面禁止    裁量審査    形式審査    許可不要

 首都ワシントンのケースもそうですが、州や自治体レベルでは、主にピストルの携帯に関して一段踏み込んだ法令が設けられています。私たちが暮らすケンタッキー州では、武器を上着やカバンに隠して外出するには許可証が必要です。自動車のコンソール・ボックスの中なら、許可証のない人が鍵をかけずに入れておいても罪に問われることはありません。

 許可証さえあればピストルを懐中などに隠し持って外出することを認める州でも、堂々と他人に見えるように携行するのは禁止している州が大半ですが、逆に、堂々と持ち歩くなら許可証も要らないという州もあり、私には判断基準が理解できません。

 いずれにしても、武器携行の規制は、残念ながら緩やかになる傾向にあります。右の図は、武器携帯の許可証発行に関し各州の法令の変化を1986年から追ったものです。全面禁止(No-issue)、当局の裁量に基づく審査(May-issue)、形式審査(Shall-issue)、許可不要(Unrestricted)のうち、全面禁止の州は今ではイリノイとインディアナを残すのみで、大半が形式審査だけで許可証を発行する情勢です。

 オバマ大統領のお膝元シカゴにも首都ワシントンと同様のピストル所持禁止条例があり、新大統領も銃規制には積極的な立場を表明しています。大統領が替われば、いずれ連邦最高裁の判事も入れ替わり銃規制が厳しくなると今から心配している人々も多いようで、当選直後にピストルの駆け込み購入が増えたというから怖い話です。

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