知っているようで知らないソーシャルセキュリティ・ナンバー
アメリカには、戸籍も住民票もありません
私は、日本で25年以上、アメリカでも10年以上働いてきたので、日米両社会保険の受給資格を持っています。アメリカの年金の支給開始は(私の年代だと)66歳からですが、年に1回、政府から、これまでの(社会保険分の)納税額と将来の支給予想額を丁寧に説明した手紙が送られてきます。さらに、今は個人で高い医療保険に加入していますが、65歳になるとメディケアという無償の国営保険でカバーしてもらえるようになるはずです。この仕組みを管理するための番号がソーシャルセキュリティ・ナンバー…もともとは身許を証明するための番号ではなかったのです。
私が、1995年にケンタッキーに赴任してきた頃はまだ40歳代の半ば。当時は、日本の社会保険庁のずさんな管理が発覚して大騒ぎになる前でしたし、老後のこともまだ真剣に考えてはいませんでした。アメリカ人の秘書さんに「ソーシャルセキュリティ・ナンバーを取ってきてください」と言われても、ただ、入国後に必要なビザ関連の手続きだろうと、軽く受け流して聞いていました。
ところが、その後、ソーシャルセキュリティ・ナンバーは、銀行口座の開設をはじめ、日常生活の様々な手続きの都度、たずねられます。そのうち、いつの間にか自分の番号を暗記するようになっていました。いったい、ソーシャルセキュリティ・ナンバーとは、何者なのでしょう?
7世紀…日本では戸籍に基づいて口分田が支給されました。 |
日本とアメリカの戸籍制度は大きく違います…というより、戸籍は中国や日本など東アジアに特殊な制度で、アメリカには戸籍(本籍)も住民票(現住所)もないのです。
アメリカで公的に管理される個人情報は、出生(Birth)、死亡(Death)、婚姻(Marriage)、離婚(Divorce)の4種目ですが、それぞれが、別々に、各地のカウンティで受け付けられますから、戸籍のように、ひとりの人物について、いつどこで生まれ、いつ誰と結婚して、別れて…という一連の情報を得ようとすると簡単ではありません。
しかし、1936年の社会保証制度の誕生と共に始まったソーシャルセキュリティ・ナンバーが、今では、出生証明書(Birth
Certificate)の申請と一緒に病院で受理されて、生まれたばかりの赤ちゃんに与えられるようになっていますから、これが、公的に個人を特定するのには最も優れた手段といえるのです。(ただし、産業革命前の生活を守るアーミッシュなどの人々は社会保障そのものを否定、100%の国民がソーシャルセキュリティ・ナンバーを持っているわけはではないのもアメリカらしいところです。)
ソーシャルセキュリティ・ナンバーは企業が給与を支給する際に必要ですから、初めての赴任者は、アメリカに着いた途端に総務の人からソーシャルセキュリティ・オフィスに出向くよう指示されるわけです。2001年9月11日の同時多発テロ事件までは、家族全員にソーシャルセキュリティ・ナンバーが与えられていましたが、次第に管理が厳しくなって、就労が認められないビザの保有者には、ソーシャルセキュリティ・ナンバーが与えられなくなってしまいました。
駐在員の奥様などソーシャルセキュリティ・ナンバーのない外国人が運転免許証を取る際には、代わりに個人納税者ID(Individual
Taxpayer Identification Number)を求める州が多いようです(もっとも、どこの国でもお役人は自己本位なのか、IDを納税以外の目的に使うのはおかしいと書いてあります)。
人々のアメリカンドリームはエリス島(ニューヨーク)の移民管理局で始まりました。 |
さて、アメリカ人にとって戸籍謄本や抄本に当るのは出生証明書(Birth
Certificate)です。帰化してアメリカ国籍を取った人の場合には、帰化証明書(Certificate
of
Naturalization)が与えられます。紛失しなければ、日本のように取り直すことなく、何度でも使えるもののようです。
アメリカで引越しをしても、新住所で転入届を出す事務手続きがありません。その代わり、州をまたいで転居の場合、運転免許証は一定期間内に切り替えなければならない決まりがありますから、たいていの人は、カウンティの事務所に出向いて、ついでに選挙権の登録も済ませてくるのだそうです。
日本では、1968年の佐藤内閣時代に国民総背番号制の検討が始まって未だに日の目を見ていません。その都度、個人のプライバシー擁護の立場から導入が見送られてきているようですが、個人のプライバシーを守るなら、戸籍や住民票に詳しい家族情報が記載されていることの方が、むしろ、問題なのかもしれません。
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