カリフォルニア州憲法の同性婚禁止規定に連邦地裁が「NO!!」
アリゾナ州の「不法移民取締法」も仮差し止め
中間選挙を前に、州政府と連邦政府が対立するケースが相次いで起きています。オバマ政権も頭が痛いことでしょう。
アリゾナ州の不法移民取締法は、合衆国憲法や公民権法に抵触するおそれがあるとして、法が施行される前日に連邦地裁が仮差し止めの命令を出しました。にもかかわらず、不況下で不法移民排斥の世論が高まる中、他州にも、同じような立法を進める動きがあります。
カリフォルニア州では、2008年に住民投票の末に決まった州憲法の同性婚否認条項に、連邦地裁が違憲の判断を示しました。こちらは、カリフォルニアを含め30州が同性婚否認を定めていますから、最高裁まで行って違憲が確定したら、全米でたいへんなことになります。
現在の連邦最高裁では、保守派とリベラル派判事の数のバランスが微妙につり合っています。共和党が上院で多数派になったら、判事に欠員が出たときにオバマ政権がリベラル派の新判事を指名しても承認されなくなってしまいます。そこで、どうやら、不法移民問題や同性婚の是非が、中間選挙の争点に浮かび上がってきたようです。
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不法移民問題 =================
不況のせいで不法移民の数も過去2年間に約百万人も減少したそうですが、それでも全米で1075万人、人口千人当りでは35人の不法移民が存在すると推定されています。失業率が全米最悪の14.2%(2010年6月)のネバダ州では10人にひとりが不法移民という状況ですから、社会問題にならないはずがありません。
不法移民の2/3はメキシコ人。メキシコのすぐ南エルサルバドル、グァテマラ、ホンジュラスの3カ国の人々を加えると3/4は中米からの不法移民で、その多くがメキシコ国境を越えてやってきます。国境の砂漠や大河で命を落とす人々も後を絶たないようですが、その半面、最近は、密入国を助け麻薬取引にかかわるギャングの凶悪犯罪が増え、国境付近が物騒になっています。
アメリカ-メキシコ国境(⇒拡大) |
アリゾナの新法は、一見、問題がなさそうな内容です。連邦法によれば、(注)アメリカに住む外国人は、外国人登録をして、常に証明書を携帯しなければならないことになっています。アリゾナ州は、それを厳格に履行させようというだけ…。
(注)日本人が観光目的でビザなし入国する際はI-94Wが証明書になります。電子渡航認証システム(ESTA)が導入されたことから、秋にはI-94Wも免除される見込みです。
アリゾナ州の国境を監視するヘリ |
しかし、厳格に取り締まるということは、メキシコ人を片っ端から職務質問するような荒っぽい捜査をするということを意味します。実際、全米には、アリゾナ州の大都市フェニックスを含め、人権擁護のため、他の犯罪容疑がなければ不法移民の疑いだけでは捜査できないと定めているサンクチュアリーシティ(聖域都市)が多数あり、そうした不法移民の安い労働力がアメリカ経済を底辺で支えてきました。
アリゾナの新法が発効していたら、アメリカ生まれの子どもを残して両親が強制送還されるような悲劇が数限りなく起きるだけではなく、不法移民を使って成り立っていた中小ビジネスが軒並みつぶれて、地域経済は一層悪化する事態になっていたかもしれません。
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同性婚の是非 =================
ヨーロッパの同性婚の是非
■同性婚合法
■同性カップルの結婚に順ずる権利認定■登録ないが同性カップルの関係認定
■憲法で同性婚否定 |
同性婚肯定の動き
■同性婚合法
■同性カップルの結婚に順ずる権利認定
■州外同性婚は追認
同性婚否定の動き
■州法で同性婚否定
■州憲法で同性婚否定 ■州憲法で同性婚も同性カップルの結婚に準ずる権利も否定■州憲法で同性婚も同性カップルの結婚に準ずる権利も私契約も否定
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アメリカといえばニューヨークやカリフォルニアから入ってくる情報が多く、日本にいると、何事にも自由が保証されている国のような気になってしまいますが、実は、キリスト教に忠実で保守的な人が過半数を占めている国です。アメリカの中西部や南部の田舎に住んでいると、よく分かるようになります。
同性婚についての考え方も、極めて保守的です。アメリカと同じようにキリスト教信者が多いヨーロッパ諸国と比べたら、一目瞭然でしょう。西欧では、カトリックの教皇のお膝元イタリアを除く全ての国で、同性カップルに結婚または結婚に順ずる権利関係が認められています。
教会行事に参列する人々の割合
■54%以上
■50-54%
■45-49%
■40-44%
■35-39%
■30-34%
■25-29%
■20-24% |
北米でも、2005年時点で既に10州のうちの8州が同性婚を認めていたカナダが、連邦レベルの合法化に踏み切りました。しかし、アメリカで同性カップルに寛容なのは、今のところ北東部と西海岸を中心に一部の州に留まっているのです。
これを、右の地図で、住民の信心深さと比べてみると、興味深い関係が明らかになります…教会に通う人々が少ない州ほど、同性婚に関して寛容ですね?つまり、カトリックやプロテスタント主流派で普段は民主党を支持しているリベラルなキリスト教徒の多くが、同性婚の是非については、保守派のキリスト教徒と一致して反対に回っているということなのでしょう。
異人種結婚禁止法
■1887年以前に廃止
■1948~67年に廃止
■1967年6月に失効 |
1967年までは、各州が定める結婚の基準について、連邦政府は口をはさまないという慣例がありました。というより、1967年に連邦最高裁で違憲判決が出るまで、南部16州に異人種間の結婚を禁じる法律が存在したというので驚きました。中には、白人とアジア人との結婚を認めない州もありましたから、日本人で困った方も、きっとおられたことでしょう。
アメリカで最初に同性婚が問題になったのは、ハワイ州で1993年のことです。州の最高裁が、明確な法に基づくことなく同性婚を否認するのは州憲法に反するとの判断を示したのがきっかけです。結局、住民投票に持ち込まれ、州憲法を修正して同性婚を認めない立法をする代わり、同性カップルにも夫婦同様の権利を部分的に付与するという「大岡裁き」的な結論になりました。同性愛者の人権は認めるが、「結婚」という言葉は使わないでほしいという気持ち…分かりますね。
当然、各地の同性愛者は勢いづきましたが、保守勢力も黙っていません。1996年には共和党多数派の連邦議会で「婚姻制度擁護法(DOMA=Defence
of Marriage
Act)」が通り、(妥協上手の民主党クリントン大統領が拒否権を行使しなかったので)成立してしまいます。そして、同性婚の是非について全く反対方向の立法化が、各州マチマチに進んでしまいました。
カリフォルニア州はハワイ州とほぼ同様で、州憲法で同性婚は否定しながらも同性カップルに夫婦同様の権利を部分的に付与していました。2008年の住民投票で、52%対48%というきわどい差で決まったものです。審理に携わったサンフランシスコ連邦地裁の判事は、これまで保守派の人物と見られていたので、今回の違憲判決は、賛否双方の側で驚きをもって迎えられています。
婚姻制度擁護法の合憲性についても、別途、連邦裁判所で審理中です。
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