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2012年8月15日(第74号)


デンバーとミルウォーキーで、また乱射事件

 でも、一つだけ明るいニュースがありました

 アメリカ生活を存分に楽しむなら、たまには現地マスコミの報道を通じて、ナマのアメリカの日常に触れてみませんか。このコーナーでは、毎月、現地マスコミの動画ニュースの中から皆さんのご興味をひきそうな話題を選んで、日本語解説付きでごらんいただきます。


 7月20日に、コロラド州デンバー郊外オーロラの映画館で、バットマン新作上映中に乱射事件が起きました。アメリカ人なら、誰でも12年前に同じデンバー郊外で起きたコロンバイン高校乱射事件を思い出して一層ゾッとしたことでしょう。

 8月5日には、ウィスコンシン州ミルウォーキーのシーク教寺院が白人至上主義者に襲撃されました。あまりにも乱射事件が多いので、過去の事件を一覧にしてみました。未完成ですが、興味のある方はごらんください。アメリカ社会を研究している方には貴重な資料となりそうなので、もう少し時間をかけて精度を高めることにしました。

 でも、暗いニュースばかりではありません。昨年(2011年)1月にアリゾナ州ツーソンで民主党ギフォーズ下院議員の集会を襲った犯人が、医師の治療を受けて正気に戻り、被害者や遺族の寛容の下、実質的に減刑されて死刑を免れることになりました。これも、アメリカらしい出来事です。


7月20日…映画館襲撃犯は「バットマンの宿敵」に成りきり

7月20日…犠牲者にトロント乱射事件を間一髪逃れた女性

8月6日…シーク寺院襲撃犯は白人至上主義ミュージシャン

8月7日…ギフォーズ議員銃撃犯は狂気から覚め実質減刑


7月20日…映画館襲撃犯は「バットマンの宿敵」に成りきり

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 乱射が始まったのは、20日金曜日の午前0時38分。犯人は、ガスマスクにヘルメット、首や鼠蹊部まで防弾服で固めて入ってきたので、観客の多くは映画館の余興と思ってすぐに逃げなかったそうです。殺傷力の高い銃を次々に取り替えて発砲し、12人が死亡、58人が負傷しました。死傷者合計では、アメリカで史上最悪の事件となり、日曜日にはオバマ大統領も駆けつけて被害者や遺族をお見舞いしました。

 容疑者は24歳。今年に入り成績が落ち、退学瀬戸際のコロラド大学大学院生でした。犯行後、警官に「ジョーカー」と名乗っています。「ジョーカー」は、ご存知のようにバットマンの宿敵ですが、法廷に現れた姿は正にオレンジ色の「ジョーカー」ヘアで、容疑者が「ジョーカー」に成りきって犯行に及んだのは間違いないでしょう。

 映画が乱射犯の動機を刺激した例は数多くあります。コロンバイン高校乱射事件(死亡13人負傷21人)が起きたのは1999年の4月21日で、映画「マトリックス」が封切られたのは3月31日。犯人の二人の少年は「マトリックス」さながらに黒のトレンチコートを着て犯行に及びました。そもそも、黒のトレンチコートは、1995年公開の映画「バスケットボール・ダイアリーズ」で主人公ディカプリオが学校で乱射するシーンに由来するようです。

 動画ニュースによれば、1994年公開の映画「ナチュラル・ボーン・キラーズ」は少なくとも8件の殺人事件を触発したそうですが、コロンバイン高校の二人も、映画名の頭文字NBKを暗号にして決行日を「聖なる4月のNBKの朝」と表すほど影響されていました。


7月20日…トロント乱射事件を間一髪逃れた女性も死亡

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 犠牲者の中に、ジェシカという25歳の女性スポーツ・キャスターがいました。NHL(アイスホッケー・リーグ)のキャスターを目指し、サンアントニオから、デンバーに転居してきたばかり。信じがたいことに、6週間前にはトロントのショッピングモールで起きた乱射事件の現場に居合わせましたが、この時は胸騒ぎがして外に出たので助かりました。

 同年輩の若者が目の前で血を流して死んでいったのを見て、ブログに「命のはかなさを見せつけられました」と書き込みました。さらに続けて「私たちがいつどこで息を引き取ることになろうとおかしくないと、あらためて思い知らされました…日々の1秒1秒が恵みです」。


8月6日…シーク寺院襲撃犯は白人至上主義ミュージシャン

 シーク教寺院の乱射では5人が死亡して3人が負傷、犯人も自殺しました。襲ったのは40歳の元陸軍職員。1998年に勤務中の飲酒や無断欠勤を理由に陸軍を解雇され、2010年にはトラック運転手の職も飲酒運転で失っています。

Celtic Cross

 白人至上主義団体「フォルクスフロント(人民戦線)」で、集会では「エンド・アパシー(無関心は終わりだ)」というバンドでギターを弾いていました。

 頭はスキンヘッドで、ネオナチを暗示するケルト十字の刺青。アルバム「セルフディストラクト(自爆)」中の「サブミッション(服従)」という歌では「試練の時代に甘んじるか、それとも命であがなうか…服従は奴隷だ」と歌っています。

 コロラド出身で、女友達に「聖戦は近い」と話していたそうですから、デンバーの事件に触発されて犯行に及んだものでしょう。

 犯人にとって、非白人の襲撃対象はいくらでもあったのでしょうが、シーク教寺院が選ばれたのは、艶やかな色のターバンやサリーが異民族・異文化の代表のように映ったのかもしれません。

 シーク教の総本山はインド北部のパンジャブ地方。パキスタンのラホールとは、ほんの50qしか離れていない国境の街です。シーク教の風俗には場所がらイスラムの影響が色濃く現れていますが、教理の方は、単純化するとカースト(身分階級)制度のないヒンズー教といえるほどインド的です。

 Golden Temple (Harmandir Sahib) , Amritsar, India

 信者はインドに19百万人、イギリスに76万人、カナダに60万人、アメリカに50万人。私の場合は、東京オリンピック出場のインドチームの中にターバンをしている選手がいたので初めてシーク教の存在を知ったくらいで、風俗的な戒律が厳しく、ターバンや髭のために目立ちやすい存在です。

 同時多発テロ以降はイスラム教徒と混同されて迫害を受けることも多かったそうで、動画ニュースを見ると、若い世代の中には髭をそり、ターバンをしていない人も見かけられます。学校でターバンをしているといじめに遭う確率が6割という統計もあるようで、明治政府がチョンマゲと和服を捨てて国際化の道を選んだ先見性に敬意を表するばかりです。


8月7日…ギフォーズ議員銃撃犯は狂気から覚め実質減刑

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 ところで、悲しいニュースが続く中で、一つだけ心休まる話題がありました。

 昨年(2011年)1月8日、アリゾナ州ツーソンで、「街角議会」という対話集会中の民主党ギフォーズ下院議員(女性)と市民が襲われ、6人が死亡し14人が負傷する事件が起きたのは覚えておいでですか?下院議員は銃弾が頭を貫通する重傷でしたが、奇跡的に一命を取りとめました。

 容疑者は停学中の22歳の大学生で、精神鑑定の結果、裁判は延期され統合失調症の治療が施されることになります。下院議員の暗殺を企てていた明らかな証拠がありましたが、現場からは一度逃亡していて、逮捕後も黙秘権を盾に犯行を認めていませんでした。

 それから1年、容疑者の精神状態は見違えるように快復し、判事の判断で、犯行を認める代わりに、間違いなく死刑になるところを終身刑に減刑する司法取引が行われることになりました。ギフォーズ下院議員夫妻も、他の遺族の多くも、寛大な措置を取ることに喜んで賛同したからです。

 犠牲者の中には、同時多発テロが起きた2001年の9月11日に生まれた偶然により、幼いうちから政治に関心を持ち対話集会に参加した9歳の女の子も含まれていましたが、そのご遺族でさえ微笑み犯人の減刑を心から喜んでいるのを見ると、アメリカには素晴らしい良心があるのだと嬉しくなります。