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2012年11月15日(第77号)


「ブッシュ減税」は2001年導入の共和党財政再建策

 オバマ再選で「財政の崖」回避協議が正念場

 日本の悪口は言いたくないのですが、自民党も民主党も、同じ党内に経済政策で対立するグループが存在して政治が前に進みません。いわば、ねじれ国会以前の問題です。

 そこへ行くと、アメリカの場合は、本当に「ねじれ連邦議会」の問題です。民主党と共和党に経済政策をめぐる基本的な理念の違いがあり、上下院の多数派が大統領の与党の時はよいのですが、今回の選挙でも、大統領と上院を民主党が取り、下院は共和党が制したので難しい政局が続くことになってしまいました。


ルーズベルト大統領(民主党)とレーガン大統領(共和党)


Ronald Reagan

Franklin D. Roosevelt

 民主党と共和党の経済政策には、それぞれにお手本となる名大統領がいます。

 民主党のお手本は、1929年に起きた未曾有の世界大恐慌を「ニューディール政策」で乗り切ったルーズベルト大統領です。当時は未熟だった社会保障制度を確立し、公共事業を積極的に推進しました。

 共和党のお手本はレーガン大統領です。80年代のアメリカの不況を、「小さな政府」を旗印に、大胆な減税と規制緩和により民間活力を引き出して経済再生を図りました。

 両大統領の政策モデルは正反対で、好況時にはともかくも、不況が続くと両党の意見の対立は次第に先鋭化していく宿命です。


レーガン減税とブッシュ減税


 レーガン大統領の在任は1981〜89年でしたが、その間にどれほどの減税をしたかといえば驚きです。大統領就任時には70%だった超高額所得者の所得税の税率が退任時にはわずか28%に下がり、その下の高額所得者の税率と逆転していたのです。

 この間に、アメリカは景気回復を果たしましたが、副大統領のブッシュ(父)が大統領職を引き継ぎ、2代の共和党政権で財政状態は極度に悪化します。

Bill Clinton

George W. Bush

 これを立て直したのが民主党のクリントン政権で、クリントン大統領は議会共和党の緊縮政策を受け入れながら累進課税を復活させ、2期目にはついに財政の通年黒字化と好景気を両立させることに成功しました。

 ところが、クリントンが退陣前に不倫スキャンダルで問題を起こし、副大統領のゴアのエリート的風貌が嫌われて、2000年にブッシュ(子)が大統領に当選します。その共和党政権が2001年に実施したのがブッシュ減税です。

 ブッシュ減税は2001年に決まったので、今では同時多発テロ後の不況対策と勘違いしやすくなっていますが、実は、減税による景気刺激効果で2010年までに累積した財政赤字を一掃するという経済対策で、2010年に効力がなくなる時限立法でした。

 しかし、ブッシュ(子)政権がアフガニスタンとイラクで戦争を始め、財政赤字が歯止めなく拡大して行ったのは皆さんご承知の通りです。


医療保険改革法とティーパーティの登場


20–27% 16–20% 14–16% 10–14% 4–10%

 2008年の選挙は、民主党が大統領と議会の上下院で完勝しました。ブッシュ減税は2010年で期限切れとなるはずでしたが、オバマ政権も景気対策優先でしたから、ブッシュ減税は2012年まで延命しました

 一方で、オバマ大統領が取り組んだのは、クリントン政権でも実現できなかった医療保険制度の改革でした。

 日系企業ばかり見ていると、医療保険は会社が必ず従業員にベネフィットで提供するものと勘違いしてしまいますが、中小企業の多くの場合は任意加入で、給与が少なくて医療保険に加入できない従業員が大勢います。

 これを全国民に義務付けて、国民皆保険を実現しようとしたのが医療保険改革法です。いわゆるオバマケアで、2010年に成立しました。

 しかし、一方で、オバマ政権は、イラク・アフガン戦争やGM救済など前政権が残したツケの払いで財政赤字を一層悪化させていました。2010年の中間選挙では、弱者救済に否定的な右翼草の根運動「ティーパーティ」が登場し、下院は共和党が過半数を取り上下院にねじれ状態が生じました。

 その後、ティーパーティ系議員が加わった議会では、民主党と共和党の対立が先鋭化し、しばしば政治的停滞が懸念される事態が起きてきます。両党とも、財政を悪化させずに景気を回復させたい思いは一致しているのですが、経済政策は逆向きです。


予算制限法と財政の崖


民主賛成 民主反対 共和賛成共和反対 欠席

 共和党は、ブッシュ減税はいつまでも続け、代りにオバマケアを白紙に戻しその他の社会保障費も削減しようと画策しています。民主党は、オバマケアを実現した上で(高所得者の)ブッシュ減税を終わらせ、さらに戦費を減らし赤字幅を削減しようとしています。

 そんな中、2011年に両党の妥協で成立したのが予算制限法でした。財政悪化を防ぐために一定以上の赤字予算を許さない法律ですが、法案には超党派の賛成と超党派の反対がありました。

 アメリカの議員も、選挙区の支持者に有利な予算を勝ち取ることには熱心で、建前では財政改善に積極的でも、本音には予算削減に反対したい気持ちがあるようです。

 そして、その予算制限法が発効するのが2013年。ブッシュ減税が再び期限を迎えるのが2012年の大晦日です。

 連邦議会予算局は、この2つの財政改善策を一気に実施すると、合計で5600億ドル(45兆円)の予算カットが必要になり、2013年前半は3%近いマイナス成長に陥ると警告しています。これが財政の崖(Fiscal Cliff)と呼ばれている問題です。

 オバマ政権も共和党も、年収が個人で20万ドル以上、夫婦で25万ドル以上の高額所得者を除いては、ブッシュ減税を継続する点では一致しています。予算制限法を多少緩めなければたいへんなことになるとの危機感も共通です。

 しかし、世間の不安をよそに、高額所得者のブッシュ減税を廃止したいオバマ政権とオバマケアを葬り去りたい共和党の駆引きが、今後もしばらく続きそうです。これも、ティーパーティ勢力に押されて共和党の穏健派が主導権を取れないためでしょう。