差別撤廃の公民権法50周年 ⇔ KKKの男がユダヤ人襲撃

　白人至上主義結社クー･クラックス･クランとは？

　4月13日、^(注) カンザスシティ郊外のユダヤ人居住区で、フレージャー･グレン･クロスという73歳の男が銃を乱射し3人を殺害しました。パトカーで連行される際に、クロスは「ハイル･ヒットラー」と叫んだそうです。

^(注)  カンザスシティは、ミズーリ川を挟んでミズーリ州とカンザス州にまたがる都市圏で、犯行があったオーバーランドパークはカンザス側の環境のよい地域です。

グリーンズボロ虐殺事件（1979年）

　クロスの別名はミラー。1970年代半ばにノースカロライナ州で、自ら創設した白人至上主義結社「クー・クラックス･クラン･カロライナ騎士団」のグランドドラゴン（リーダー）でした。この組織は、1979年に、クー・クラックス･クランを賛美する映画の上映に抗議するデモ隊に向けて発砲、5人が死亡する「グリーンズボロ虐殺事件」を起こしています（ちなみに、刑事裁判では全員無罪が確定）。

　その後、組織は改名を重ね、白人愛国党の名で武器を蓄えて準軍事組織化…ピーク時のメンバーは実に3千人を数えたともいわれています。しかし、1987年に黒人人権団体を脅したかどでクロスは有罪判決を受け、連邦刑務所に3年間服役しました。

　一方で、1980年代には、ノースカロライナ州知事の予備選挙に二度立候補していました。2006年にはミズーリ州から連邦議会の下院議員、2010年には上院議員に立候補しましたが、「善意の候補者」と認定されず、テレビ広告で白人至上主義の選挙宣伝を流してもらうことはできませんでした。

　容疑者のクロスは取調べ中ですが、事件がユダヤ人に対する憎悪犯罪（ヘイトクライム）であることは間違いないでしょう。最近では、2012年にミルウォーキーで起きたシーク教寺院襲撃事件（第74号）、2009年6月にワシントンDCでホロコースト博物館が襲撃された事件（第36号）などと類似しています。

公民権法制定（1964年）直前の南部

　今回のクロスの犯行の引金を引いたのは、事件の3日前にテキサス州オースティンのジョンソン記念図書館で催された公民権法（Civil Right Act）制定50周年の式典だった可能性があります。

　今年は、1964年にケネディ大統領の遺志を継いでジョンソン大統領が公民権法に署名してから50周年の節目の年。10日に、カーター、クリントン、ジョージ･W･ブッシュ元大統領も参列し、オバマ大統領が「私が大統領になれたのも公民権法ができたおかげ…」と演説（動画）したばかりでした。

　前年の1963年は公民権運動が一つのピークに達した年で、舞台はアラバマ州のバーミングハムでした。キング牧師ら大人の黒人活動家が逮捕し尽くされた後、デモを引き継いだ少年少女を、高圧放水や警察犬を使って市警が排除する映像が世界中にテレビ中継され、ついに連邦政府が介入する事態に発展しました。

　これを機に公民権法を後押しする世論が盛り上がったのですが、同じ年の9月にはクー･クラックス･クランのメンバーが黒人教会で4人の少女を爆死させる事件を起こし、11月にはテキサス州ダラスで選挙遊説中のケネディ大統領が暗殺されました。当時のニュース動画をごらんください。

　動画の中で最初に登場してくる白装束の一団がクー･クラックス･クランで、当時のアラバマ州政府やバーミングハムの市警と強く結びついていたものと信じられています。

　州知事のジョージ･ウォレスは、1962年の選挙で、白人と黒人を公共の場で同席させない「人種隔離」を永遠に続ける公約を掲げて当選した人物です。その後、大統領選挙にたびたび挑戦し南部では大いに健闘しましたが、1972年に銃撃事件で下半身不随となり、70年代後半には過去に進めた人種差別政策について全面的に謝罪します。

現代のクー･クラックス･クラン

　ウォレス知事のように悔い改めた人もいれば、クロスのように白人至上主義を捨てられずに生きてきた人もいます。

　最初のクー･クラックス･クランは、南北戦争直後の1865年12月に結成されました。以来100年にわたり黒人のリンチ殺人など非合法活動を繰り返し、たびたび姿を変えてしぶとく生きながらえてきました。

　その後、露骨な犯罪行為は目立たなくなりましたが、下の動画のように、今でもクー･クラックス･クランを名乗る団体は各地で活動しています。有名なクロスバーニング（十字架燃やし）の儀式をごらんください。

　「クラン」は、スコットランドやアイルランドなどケルト民族の血縁集団の単位ですが、クロスバーニングもスコットランド由来の宣戦布告の儀式でした。