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2014年11月15日(第101号)


北米の火山@ ハワイ島のキラウエア火山とマウナレア山

 「島が崩壊してメガ津波」説の真偽をチェック

 御嶽山の噴火で多数の方が亡くなったニュースは、アメリカでも大きく報道されていましたね。あれ以来、日本では火山噴火の怖さが再認識され、富士山の噴火対策も少し本気度を増したようです。阿蘇山など九州方面で1万年に一度の破局噴火が起きれば、沖縄・北海道以外の人々は全滅などと恐ろしい研究が発表されています。

 一方のアメリカでも、キラウエア火山の溶岩流がハワイ島の小さな町を襲い、道路が寸断されたり家が焼けたり今も被害が拡大しています。


キラウエア火山・セントへレンズ山・イエローストーン


 ところで、火山爆発指数という数値があるのは、ご存じですか?噴火の規模を、溶岩を除く噴出物の量で表す指標です。過去の爆発を指標化するのは難しいようで、出典により評価が違うケースもありましたが、異論は承知で下の表を作ってみました。

 VEI-2はVEI-1の100倍で、それ以上は一段階上がるごとに規模が10倍になっていきます。つまり、300年前の富士の噴火は御嶽山や大島・三宅島の噴火の千倍の規模で、北米でいえば1980年に噴火したセントへレンズ山の噴火に匹敵します。9万年前の阿蘇の噴火は、さらにその百倍の規模で日本を壊滅させてしまいそうですが、イエローストーンの噴火はそのまた十倍の規模で人類を壊滅させてしまうかもしれない規模の噴火なのです。

Volcano Eruption Index…火山爆発指数

(3行目は溶岩を除く噴出物の量、4行目は過去1万年の発生件数)

VEI-0 VEI-1 VEI-2 VEI-3 VEI-4 VEI-5 VEI-6 VEI-7 VEI-8
非爆発型 小規模 中規模 やや大規模 大規模 とてつもなく大規模 破局噴火

<1万㎥

1万㎥ >百万㎥ >千万㎥ 0.1㎦ 1㎦ 10㎦ 百㎦ 千㎦
無数 無数 3477件 868件 278件 84件 39件 5件 0件

1

9

1

5

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0

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0

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1

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3

1

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5

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0

1

9

9

1

6

3

0

0

鹿

2

2

9

1

0

 

1

8

1

5

7

3

2

6

5

6

4

 それでは、以上を皆さんに大雑把にご理解いただいたところで、北米の火山を、できれば観光面も忘れずにも含めてご案内することにいたしましょう。ハワイ島の火山とセントへレンズ山とイエローストーンの3タイプの火山について、3回に分けて連載します。


ハワイ島の噴火


Hawaii Island (⇒拡大)

 ハワイ諸島中最大で最南端のハワイ島では、1983年1月にキラウエア火山の中腹にできたのプウオオ火口の噴火が、31年にわたり途切れることなく続いています。

 これまでの溶岩流は南斜面を流れて下り、カラパナやカイムの町を覆い尽くして海に注いでいたのですが、今年6月に新しい火口ができ、今度は一筋の流れが東北東に進み始めました。

 その先には、人口千人弱のパホア村があります。人的被害が出ていないのは不幸中の幸いですが、今月(2014年11月)には溶岩流はジワジワと村に流れ込み、既に日系人墓地も呑み込まれてしまいました。

 でも、ハワイ島の噴火はマグマを噴水のように噴き上げるだけで、見た目は怖そうでも、爆発しないので、あまり危なくありません。観光にはもってこいで、今まさに被災中のパホア村の皆さんは憤慨なさるでしょうが、火山爆発指数で表せば「0」。非爆発型噴火のことを「ハワイ式噴火」と呼ぶほどで、ほかではアイスランドで見かけられるくらいの珍しい噴火です。

 実際、1960年に東の岬の突端のカポホという村で噴火が始まった時も、村民は急いで避難をしませんでした。それどころか、ブルドーザーで堤防を築き何とか村を守ろうとしたのですが、堤防は溶岩の重さの前に全く歯が立たないことが証明されただけでした。

 余談ですが、いったん火山系のお話を棚上げにして、ハワイ島の簡単なご案内をしておきましょう。

 古来ハワイには島ごとに独立した権力がありましたが、1795年にハワイ島のカメハメハ1世が、白人から手に入れた武器の助けを借りハワイ諸島を統一しました。そこで、ハワイ島にはカロコ‐ホノコハウ国立歴史公園(YouTube動画)やプウコホラ神殿国立史跡(YouTube動画)、プウホヌア・オ・ホナウナウ国立歴史公園(YouTube動画)など先住民ゆかりの遺跡が多く残っていますが、観光客の関心は美しい海のスキューバダイビングの方に片寄っているようです。

 中心市街は東海岸のヒロ(YouTube動画)、多雨の恵みを受け1850~1900年にサトウキビ栽培のブームタウンとして発展しました。西海岸はコーヒー・ベルト(YouTube動画)として有名です。貿易風が標高4千メートル級のマウナケア山とマウナロア山にさえぎられ、雨が降り過ぎず、溶岩質の土壌で最高級のハワイコナ・コーヒーが生産されます。

 マウナケア山は、4600年前の噴火を最後に活動していません。山頂は世界各国の宇宙観測施設が軒を連ねる天文台銀座(YouTube動画)です。山腹には、19世紀にメキシコ領時代のカリフォルニアからやってきたカウボーイの子孫の経営する牧場もあります。パオニロ(YouTube動画)と呼ばれるこの人たちは、牧畜の技術とともにギターとヨーデルのような裏声をハワイにもたらし、ハワイアン音楽の進化に貢献しました。


ハワイ・ホットスポット


 ご存じの方も多いことでしょうが、ハワイ諸島の火山は、日本の火山のように大陸プレートに海洋プレートが沈み込んでできたものではありません。地球内部の対流で生じたマントルの上昇流が海洋の地殻を突き破って噴出したものです。下に火山の成因を比較した図を掲載しましたから、比較してください。

火山の成因 (⇒拡大)

 ホットスポットの位置は変わらずに、地殻を載せたプレートだけが移動すると、移動線に沿い火山が連なってできます。

ハワイ・ホットスポット (⇒拡大)

 つまり、ハワイ諸島は北の島ほど古く、カウアイ島は560~490万年前、オアフ島は340万年前、マウイ島は130万年前にでき、ハワイ島は70万年前からでき始め今なお成長しているということです。

 最も新しい火山はハワイ島南沖のロイヒ海山で、山頂の深度980m。後1~10万年は待たないと海上に顔を出しませんが、海洋底からの高さは3000m以上といわれています。

 同じように、標高4205mのマウナケア山も、海洋底から測れば10203mですから、実は世界一高い山…噴火は4500年前が最後で、全米火山早期警戒システムの優先監視リストにも入っていません。コハラ山も同左で、フアラライ山は1700~1801年に活発に噴火した記録があるので、優先監視対象です。

 キラウエア火山のことは、また後で…。

ハワイ-天皇海山列 (⇒拡大)

 ハワイ諸島の延長にも、ホットスポットが残した火山群が続いています。北西ハワイ諸島は、2770~720万年前にできました。その後は徐々に沈下して、今ではほとんどがサンゴの環礁や環礁島になっています。かつて米海軍の航空拠点だったミッドウェー島は、最西端の島の一つです。1942年6月にこの島の周辺海域で日米の機動部隊が激突し、開戦後わずか7ヶ月で日本は主要航空兵力の多くを失ってしまいました。

 その先は軽く右折して、8500~3900万年前にできた天皇海山列につながっています。沈下が進み、海中に没してしまった昔の島々です。ほとんどの海山に歴代の天皇の名前が付けられていますが、命名者は、戦後、フルブライト奨学金で東大に留学していたアメリカの海洋地質学者ロバート・ディーツです。 


世界遺産…ハワイ火山国立公園


 そろそろ、火山の話題に戻りましょう。もう一度ハワイ島の地図をごらんください。ハワイ火山国立公園は、マウナロア山とキラウエア火山の真新しい火山活動を見せる景勝地で、1987年に世界遺産に指定されています。

 マウナロア山は、高さで36mだけマウナケア山に及びませんが、キラウエア火山とともに連邦地質調査所の最優先監視対象で、現役バリバリの火山です。このところ30年間はおとなしくしていますが、1950年に南西地溝帯で23日間続いた噴火は歴史的にも最大級で、噴出した溶岩は、計算すると一辺7.25kmの立方体の容積にも相当する量でした。溶岩流はコナ海岸南部の村を呑み込み、最初の3~4時間で24km先の海岸に達したそうです。

 キラウエア山の北東には地溝帯沿いに火口が点々と並んでいて、上述のカポホ村にできた火口もその延長線でした。南西地溝帯に火口はありませんが、その代わり、幅と深さがともに18mの地割れ(通称グレートクラック)が長さ13kmのにわたって続いています。


キラウエア山の地すべり層とメガ津波


 さて、冒頭では、キラウエア火山の噴火は危なくないと強調しましたが、噴火自体が安全でも、ほかにメガディザスター(超巨大災害)の芽がないとは言えません。

 ハワイ諸島は、これまでに何度も島が割れるような山体崩壊を経験して成長してきたらしいのです。となれば、グレートクラックを境に島が真っ二つに分かれ、南は海に崩れ落ちるのではないかと心配ですね…何しろ地割れは年12cmの割合で拡大しているのです。

 また、地質調査の結果、キラウエア火山の南の山腹にヒリナ断層という地すべりを起こしやすい層があり、その土砂の量は1辺が27kmの立方体相当あることも分かっています…これが一度に海にすべり落ちたら、たいへんです。

 どちらの場合でも、マグニチュード9の地震と高さ300m超のメガ津波が一度に起こり、太平洋沿岸の国々にも軒並み30m級の津波が襲うでしょう。

 しかし、私は取敢えず安心して、大好きなハワイ旅行をこれからも続けようかと思っています。グレートクラックが、アイスランドの地溝帯のように深く割れるには、まだまだ時間がかかりそうだし、ヒリナ断層の地すべりも、海底の地質調査の結果を聞くと一度に崩れる懸念はまずなさそうです。

 しかし、メガ災害ならぬ大災害なら、今後も時折起きるでしょうから、これからハワイ島を観光で訪れる方は軽い心構えをしておきましょう。

 1968年には、グレートクラックの西の縁を震源に、マグニチュード7.9の地震が起きました。マウナロア山の南斜面の地すべりが起き31人、高さ20mの津波がハワイ島沿岸を襲い46人が死亡。

 1975年には、ヒリナ断層で60kmにわたる地すべりが起こり表土層が海側に3m移動、マグニチュード7.2の地震が起きました。津波の高さは最高14mで、2人が死亡、19人が負傷しています。