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2016年6月15日 (第120号)

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気 候

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自 然

 ガソリン値上がりの一要因…オイルサンド開発が山火事でストップ

  オーロラの町の石油産業(カナダ・アルバータ州)

 一時は全米平均でガロン当たり2ドルを切っていたガソリン価格が、バカンスシーズンを前にじりじりと値上がりしてしまいましたね。

 その主要な原因が、カナダとナイジェリアの部分的な石油供給停止だというのですが、中東以外の産油国の事情で、世界の石油需給が大きく動くなんて久しぶりですね。山火事によるカナダの石油減産は日量(1日当たり)約1百万バレル、武力紛争によるナイジェリアの石油減産も日量1百万バレル余りと見られています。


世界の石油の需給バランス


 下のEIA(米エネルギー情報局)のグラフと表をごらんください。2015年の世界石油需給バランスは、日量で193万バレルと全体の約2%の供給超過でしたが、これにカナダとナイジェリアを合わせて日量200万バレル以上の減少要因が加われば、わずかながらも需要超過に転じます。カナダの石油減産が一時的なもので、先進国の石油備蓄が2ヶ月を超えているからといって、+と−では大きな違い。市場では大きな投機マネーが動いて、私たちが買うガソリンまで値上がりしてしまいます。

世界の石油需給

2015年(百万バレル)

世界生産/日 95.74
世界消費/日 93.81
*OECD備蓄 2997
OECD消費/ 46.23
備蓄日数 64.8日
*先進国を中心とするOECD加盟34ヶ国

フォートマクマレーの山火事


 さて、山火事があったのはアルバータ州のフォートマクマレーという北緯56.7度の町の周辺です。人口は6万1千人。どのくらい北かというと、北海道の宗谷岬が北緯45度、アメリカとカナダの西部の国境線が北緯49度で、カルガリーとエドモントンがそれぞれ北緯51度と53.5度です。

 山火事は5月1日にフォートマクマレー南西15kmの原野で発生。3日までに2千4百軒を焼き、周辺のコミュニティを合わせ8万8千人が避難しました。焼失面積は、茨城県の広さに匹敵する6千平方kmに迫り、煙はフロリダやスペインでも観測されました。

 19世紀以降に北米で焼失面積が最大の山火事は、1950年に同じアルバータ州の北西部からブリティッシュコロンビア州にかけて燃えたチンチャガ森林火災の1万4千平方kmですが、これも含めて5指に入る山火事となるでしょう。

 火災の原因は今のところ不明ですが、火災発生当時のアルバータ州北部は異常高温・異常乾燥の暖気団に覆われていました。3日にはフォートマクマレーで史上最高気温32.8 °Cと湿度12%を記録、4日には風速20m/秒の強風が吹き、一気に火勢を強めました。

 エルニーニョの影響とも温暖化の影響とも言われていますが、冬に降雪が少なく樹木や落ち葉が乾燥していたのも焼失面積が広がった一因です。右の地図は、4月26日から5月3日の各地の地表温度を、2000~2010年の平均と比較したものです。ネバダ州からミネソタ州南部にかけ地表温度が平年より15℃低い地域が続く一方で、アルバータ州を中心に地表温度が平年より15℃高い地域が広く分布しています。

 次の動画の2分30秒頃には、一斉避難で渋滞する車列に、左右から火の粉が降り注ぐ光景(フル動画)が写っています。犠牲者が一人も出なかったのは、奇跡に近い出来事です。

山火事で避難する人々

 5月下旬にアルバータ州は全般的に寒くなりました。おかげで延焼は食い止められるようになってきましたが、フォートマクマレー周辺の降雨は少なく鎮火には至りません。6月13日現在では、全体の82%が消火されたと発表されました。フォートマクマレーは町の85~90%が無事に残りました。住民も、6月1日から徐々に帰還しています。


オイルサンドの功罪


 世界的に、オイルサンドから石油を抽出しているのはカナダだけで、その中心がフォートマクマレーです。ハドソン湾を取り囲むカナダ楯状地には地球最古の陸地の地層が露出していますが、その周りのアルバータ州とサスカチュワン州南部は、その後の地球の歴史の中で一時海の下に沈み、石油を埋蔵しました。

 最大のアサバスカ油田は、地表こそタイガ(針葉樹林)や湿原に覆われていますが、北海道・九州・四国を足した14万平方kmの広大な地域に、世界の在来型石油の確認埋蔵量に匹敵するオイルサンドが眠っていて、とてつもなく大きな重機で露天掘りが行われています。

 オイルサンドがなければ、フォートマクマレーは今も人口千人そこそこのオーロラ観光の町でいたかもしれません。1967年に石油の商業生産が始まり、73年と79年の二度の石油危機や2004~14年の第三次石油危機でオイルサンドの採算が好転するたびに人口を倍々に増やしてきました。6~8月の平均最高気温は20℃を越えますが、12~1月の平均最低気温は-20℃を下回る極寒の地です。

 ところで、従来型のオイルサンド開発にはいくつか問題があります。人里離れた場所とはいえ、露天掘りで針葉樹林を破壊し、タール状の産業廃棄物を大量に生むだけでも重大な環境破壊です。

 次に油分を分離するのに熱湯を使う点ですが、余計なコストがかかるだけではなく、熱湯を作るのに二酸化炭素を排出させるので汚い石油(Dirty Oil)と呼ばれているのです。実のところカナダは、2012年までに温室ガスを1990 年比6%削減する約束をしていながら、オイルサンドの開発で、逆に2008~12年の5年間に30%近くも増加させ、京都議定書を脱退してしまったのです。

オイルサンド採掘と石油の抽出

 オイルサンド開発が進んだのは、北米のシェールガス・ブームで天然ガスが安くなり、結果的にオイルサンドから原油を得る採算が向上したからです。そこで、その原油をカナダからテキサス州ヒューストンの製油所などに送るパイプラインの建設計画があったのですが、オバマ大統領により拒否されてしまいます。昨年(2015年)11~12月にパリで開かれたCOP21に出席する直前の決定でした。

 カナダといえば世界の優等生的なイメージが強いだけに、皆さんも意外ではありませんか?昨年11月に発足した自由党のトルドー政権は、環境保護を訴える一方でパイプラインの建設は推進すると公約していました。若干43歳で、名首相を父親に持つイケメン首相のエネルギー政策が注目されます。