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2016年6月15日 (第120号)

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社 会

歴 史

 テーザー銃(殺傷力の高いスタンガン)を撃った警官に実刑!!

  心停止を放置され高校生に記憶障害の後遺症

 アメリカでは銃が野放しで各地で銃の犯罪や事故が絶えないとはいえ、大半は都市の犯罪多発地区や田舎のコミュニティの出来事です。皆さんの中にも、運悪く危険な目に遭遇なさった方は多くはないでしょう。その意味で過度に心配なさる必要はありません。


飛び道具タイプのテーザー銃


 しかし今回、私が特に皆さんにお伝えしたいのは、日本で女性の痴漢撃退用のイメージが強いスタンガンの中に、テーザー銃という飛び道具タイプがあり、全米45州で自由に売られていますが、使い方を誤ると人を殺めてしまうことがあると知ったからです。被害者の立場としても、加害者の立場としても、事件に巻き込まれないように、十分注意してください。

===== 二つの事件の動画 =====

 後段で詳しくご紹介しますが、2014年9月にカンザスシティ郊外の閑静な住宅街で、高校生に警官がテーザー銃を使用した事件が結審し、一部始終の動画を6月6日に連邦裁判所が公開しました。高校生は一時的に心停止に陥り、深刻な記憶障害の後遺症に悩んでいます。また、世間に表沙汰になるテーザー銃のトラブルは氷山の一角のようですが、調べてみると、2007年10月にカナダのバンクーバー空港で、英語の話せないポーランド移民がテーザー銃で取り押さえられ死亡した事件が知られていました。

 教訓だけ先に述べれば、テーザー銃の殺傷力が使用者に周知されておらず、安易に使われるおそれがありますから、皆さんも気をつけてくださいということです。

===== 女性の護身用(C2) =====

 カナダでは全土で禁止されていますが、アメリカでは、ニューヨーク・ニュージャージー・コネチカット(屋内使用可)・ロードアイランド・マサチューセッツ・ハワイの6州を除き、一般市民の使用も合法です。その他の州ではワシントンDCを除き銃砲扱いされず、簡単に手に入れることができるでしょう。

 実際に屈強なアメリカ人に襲われた場合の有効性を考えると、女性の護身用や住宅防犯用には、理想的な武器かもしれません。しかし、女性向きの優しいデザインであっても、胸に向けて発射し電流を長時間流し続けたら、心停止から死に至らせるリスクがあることは知っておいた方がよろしいでしょう。

 製造元のテーザー社は、テーザー銃の殺傷リスクを積極的に説明しようとしていません。上の動画でも、ヒト型の標的の胸に的の円を描き、胸をねらって撃つ練習をさせていますが、現実的には、胸をねらって撃つしかないケースもあるでしょう。

===== ピストル型(M26/X26)・ライフル型(X12) =====

 治安用に使われるのは、見るからに武器の形をしたタイプです。ピストル型(M26/X26)のテーザー銃を撃つと、2発の弾丸の先端についた針が相手に刺さり、細い電線が通じ5万ボルトのパルス電流を流す仕組みです。警官は、ガンベルトに挟んで携行できます。ライフル型(X12)のテーザー銃の場合は、先端に2本の針がついた電池内蔵の弾丸が放たれ、遠方の目標でも電線なしに自動的に電流を流します。


カンザスシティ郊外の事件の動画


 次の動画は、警官が運転していた車載カメラが写した事件の模様です。被害者のブライス少年がスマホで写した動画も並行して表示されます。警官の行為が残虐で、気分を悪くなさる方がおられるかもしれません。

 場所は、カンザスシティ郊外のインディペンデンス。少しややこしいのですが、カンザスシティはミズーリ州とカンザス州にまたがる人口2百万人余りの都市圏で8~9割がミズーリ州側にあります。中でもインディペンデンスは、ミズーリ川を上ってきた開拓者たちが幌馬車に乗り換えてオレゴンやカリフォルニアに向けて出発した由緒ある街で、トルーマン大統領の生誕地としても知られています。

===== 一部始終の動画 =====

 事件は、2014年9月14日の午後3時頃に、当時17歳のブライス・マット少年が灰色のポンティアックを運転して自宅を出たところで起きました。同じミズーリ州の反対側のセントルイス郊外では、1ヶ月余り前の8月9日に素手の黒人少年が白人警官に射殺され、暴動が起きていた頃の話です。

00.00 ガソリンスタンド付近から、ティモシー・ラネルズ警官が運転するパトカーが道路に出て、少年の車の追跡を開始(音声なし)。

00.37 (音声が入り)サイレンを一度だけ鳴らし、少年を停車させる。

00.54 パトカーも少年の車の後ろで停車。

02.20 警官が降りて、少年の車の助手席側から窓を叩く。窓を下ろせと二度言うが、少年は(おそらく窓を半開きにして)(このままで)ちゃんと聞こえると、取り合わない。

02.34 警官が運転席側に回ってドアを開け外に出ろと指示。少年は僕は逮捕されたのか?と聞くが、警官は質問に答えず引きずり出そうとする。

02.56 (少年がスマホで動画の撮影を始める)警官は少年の足を持って引きずり出そうとする。

03.17 テーザーを発射。

03.24 (少年のスマホの動画が途切れる)少年はのろのろ外に出てスマホを落とし道路に倒れ込む。警官は「(だから)言っただろ

03.38 (テーザーの電流の音が切れる…21秒)うつむきで寝転ぶ少年に後ろ手を組ませて手錠をかけ、背後から後ろ手の腕を抱え足を引きずって道路際に運び、

04.05 胸の高さから手を離し少年を地面に叩きつける(少年のあごは外れ歯が折れた)。うめく少年の体をあおむけになれと無理に動かして、所持品検査。この頃、既に心停止?

05.23 さっさと起きろとかふざけてんじゃねえとか怒鳴っても、少年はうつむきのまま動かず返事もしない。さらにテーザーなら何度も使ってるが、こんな風にはならねえんだ

06.27 (無線で救急車を要請?)

07.08 (同僚の警官が到着)同僚に立ち話で、事情を説明。

08.14 少年の体をあおむけにひっくり返す。二人とも何もしないで、立ち話を続ける。

09.42 救急車が到着。二人ともその場に立ったまま救急隊員に顔が青くなっていると報告。

10.26 救命措置を開始。

12.48 (おそらくAEDの電気ショックで蘇生)

13.31 消防車が到着。

15.51 この頃、点滴開始。

18.01 両親が現場に到着。警官たちを罵倒。少年をタンカに乗せで救急車に運び入れる。

21.40 救急車が病院に搬送。以後、現場検証が続く。

 少年は何とか命は取り止めたものの、6~8分にわたって心停止していたために、酸素不足で記憶障害の後遺症を負ってしまいました。

===== 原因は些細なトラブル =====

 事件の背景についてはインターネットメディア "The Intercept" が詳しく伝えていますが、些細なトラブルが原因でした。

 夏の初めに少年と友人は、ティモシー警官と別の同僚警官にマリファナ所持を見とがめられます。一度は見逃してもらえましたが、二度目は警察に留置されてしまい、父親が引き取りに行きました。しかし、少年の朝帰りを待ち伏せした上に、車に手をつかせてポケットの中を探った同僚警官の捜査は過剰で違法です。

 両親は、少年にマリファナを止めるよう意見する一方で、警察の人権侵害に抗議し、少年に対しても、次に警官に呼び止められたら、呼び止めた理由の説明を求めるよう指示しました。事件の日も、少年は家を出た直後から警官に尾行され、停車を命じられます。少年は両親の指示通りに捜査協力を拒み、僕は逮捕されたのか?と繰り返したずねました。それが裏目に出て、警官はいら立ちテーザーを使用したのです。

 判決で、警官は懲役4年を言い渡されましたが、実はテーザー銃の使用も、テーザー銃の電流を基準の4倍の20秒以上流し続けたことも、検察の起訴理由には含まれていません。警官が胸のあたりで手を放し、必要もなく少年の顔をケガさせた傷害だけが、刑罰の対象とされたのです。


バンクーバー空港事件


 カンザスシティ郊外の事件は、少年が警官に口頭で抗議して起きた事件でしたが、バンクーバー空港の事件は、英語が話せずにいら立った男が空港の器物を壊して起きた事件でした。

 ロバート・ジカンスキー(40歳)はポーランド南部グリヴィツェに住む元鉱夫の建設労働者で、2007年10月13日、カナダに住む母親を頼りに移民してきたところでした。英語は話せません。飛行機は2時間遅れで、その日の午後3時15分に到着し、ロバートは通訳の助けで最初の入国手続きを終えました。

 その後4時から10時45分までの行動は不明ですが、手荷物受取所の付近でたびたび目撃されています。母親に手荷物受取所付近で待てと指示されていたのです。しかし、税関は保安区域で、母親が入って来れません。母親は午後の早いうちに空港に来て探し回っていたのですが、空港職員にロバートはいないと言われ、飛行機に乗り損なったものとあきらめ午後10時頃に帰宅していました。

 税関を出ようとしたロバートは、再び入国管理に案内されます。ビザ発給の手続きが終わった時は、翌日の零時15分になっていました。それから30分ほどして国際線の到着ロビーに向かわせたところ、ロバートがイスを持って暴れ出しました。母親がいなくて途方に暮れ、我を失った様子です。

 そこへ駆けつけたカナダ警察の4名の警官のうち1名がテーザー銃を撃ち込み、ロバートは痙攣しうめきながら床をのたうち回ります。しかし、警官はさらに3発を撃ち込み(検視結果によれば全部で5発)、警官隊がロバートを取り押さえ手錠をかけてからも、しばらく電流を流し続けたようです。ロバートはぐったり横たわり、15分後に救急隊員がやって来た時には心肺蘇生も手遅れで、現場で死亡が確認されました。

 一部始終は、居合わせた旅行者がビデオカメラで撮影していました。カナダ警察は、動画を任意で押収しようとしましたが、旅行者は返還を求め11月にTVメディアにより公開されました。それが決定的な証拠で、8年後の昨年(2015年)2月に、テーザー銃を撃った警官は偽証罪で2年半の懲役刑を宣告されました。

===== 氷山の一角 =====

 全く事情の違う二つの事件に共通するのは、両方とも一部始終がカメラに撮られていた点と、警官のテーザーの使用については罰せられていない点です。つまり、北米の治安当局はテーザー銃の不適切な使用を必要悪として認めているということですから、皆さんも、警官に交通違反の切符を切られて意義があるような場合も、その場で口論になるような事態は絶対に避けましょう。

 また、自分が暴漢に向けてテーザー銃を撃った場合を想定すると、相手がぐったりするまでは、反撃が怖くて電流を流し続けるに違いないと思われます。そこまでは正当防衛でしょうが、ぐったりした相手を路上に放置して逃げたら人殺しになってしまうかもしれません。私はテーザー銃を持っていないので全く仮定の話ですが、安全なところまで逃げて警察に通報するのが、正解かな?と思います。