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2018年9月15日 (第143号)

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家事とお料理

e-百科

食中毒 ❸

 決定版…「アメリカの生卵は危ない神話」の真偽を解明!!

 60℃のお湯に3∼4分で100%安心卵の出来上がり

 昔からアメリカで生卵を食べると食中毒のおそれがある噂されてきました。確かに、卵のパックには小さな文字で食中毒を避けるために卵は冷蔵庫に保存し、卵黄が完熟するまで調理し、卵料理はとことん調理することと書かれていますから、注意書きを尊重するなら、半熟の目玉焼きも卵がトロトロのオムライスも食べられなくなってしまいます。

 しかし、根っから日本人の私たちには生卵抜きのすきやきなんて想像できませんません。たまには、生卵入りの納豆や卵ご飯も食べたくなります。そこで、私たちはこれまで市販の卵を決死の覚悟?で生のまま食べてきましたが、幸運にも一度も食あたりしたことがありません。

===== 日本の生卵と比べ同程度のリスク =====

 果たしてアメリカの生卵は、日本の生卵と比べ本当に危ないのでしょうか…いたずらに不安をあおるフェイクニュースが氾濫する中、CDC(米国疾病予防管理センター)をはじめ日米の信頼できる筋の情報を探し出し、多面的に調べてみました。以下は、その要点です。

❶ 生卵は1970年代まで安全性の高い食材だったが、1980年代からヨーロッパでサルモネラ菌(サルモネラ・エンテリティディス)に汚染された卵による食中毒の集団感染が見られるようになった。日本でもヨーロッパから輸入した種鶏から汚染が広がり、1989年以降は食中毒の原因菌の中で首位に躍り出た。

❷ サルモネラ菌の汚染には、養鶏場や出荷・運送工程の衛生環境が悪く菌が卵殻に付着したりする外部要因と、特にアメリカ北東部では1万個に1個という低い確率ながら、産卵時に親鶏の卵巣・卵管から卵の卵黄・卵白に直接感染するケースがある。ワクチンや抗菌薬で保菌鶏を治療する手段はあるが、それだけで汚染を完全に撲滅することは難しい。

❸ しかし、サルモネラ菌汚染も含め、食中毒は一般的に原因菌の濃度が低ければ発症せず、生卵についても鶏舎や選別場・流通経路の衛生状態と温度の管理が適切であれば、ある程度の期間は食中毒が起きる危険な濃度に達しない。賞味期限はこうした前提で定められており、アメリカも含む先進国では、世界保健機構(WHO)の指針に準じた対策を講じ、鶏卵に起因する食中毒の集団感染が激減した。

❹ もっとも、小規模な汚染鶏卵による食中毒の発生は未だに根絶できず、一度に全米で数十人の患者が発症することがあるが、カット野菜はじめ鶏卵以外の病原も含めたサルモネラ菌の食中毒が推定で年間120万人にも上る中、ことさら生卵を区別して警戒する理由は薄れつつある。

❺ それでも、生卵を安心して食べるには、まず購入時に賞味期限を確認し新鮮で、汚れたり割れ目の入った卵のないパックを選ぶことが重要。ただし、賞味期限の表示はブランドによって異なるので要注意!! グレードAAの卵は品質が高く、常識的に養鶏場や出荷・運送工程の衛生管理も行き届いているものと推定されるが、直接的に食の安全を保証する等級ではない。一般に、安くて売れ筋のラージサイズ12個入り卵パックが、最も新鮮

❻ サルモネラ菌も含め細菌は10℃以下で増殖の速度が遅くなるので、購入後は、寄り道して夏に熱い車中に卵を放置するなど油断せず、帰宅後速やかに冷蔵庫に保存する卵殻は水を通すので、水洗いは表面の汚れが卵の内部に浸透するリスクを増し、逆効果(日米の場合、鶏卵は出荷前に洗浄されている)。また、割り置きは厳禁で、生食するならできるだけ早く召し上がること。ババロアやアイスクリームなど生菓子に使用する場合はもちろん、目玉焼きやオムレツなど半熟状の卵料理の際にも生食に準じた注意が必要。卵料理は、冷蔵庫内でも安心して長く保存せず、速やかに食べること。

❼ 免疫力の弱い幼児や高齢者の生食には低温殺菌卵(Pasteurized Eggs)がより安全だが、全く無菌というわけではなく、普通の卵と同じく冷蔵庫に保存し賞味期限を守らなければ意味がない。低温殺菌は一般の卵を60℃のお湯で3分熱するだけでできるので、必ずしも高価な市販製品を買う必要はない

日米の鶏卵の取扱には共通する点が多いが、相違点もある。アメリカでは卵を冷蔵して輸送し、スーパーでも10℃以下に設定された冷蔵棚に並べて売るが、日本やヨーロッパの店では、卵の表面の結露により雑菌が卵殻の気孔を通じて侵入しやすくなるのをおそれ、室温で陳列して売ることが多かった。最近は日本でも冷蔵棚に陳列する店が増えつつある。アメリカでも、冷蔵室のドアの開閉による温度変化で卵が結露しないよう、敢えて開放的な冷蔵棚に置いている。

アメリカの生卵は危ない神話は、鶏卵のサルモネラ菌汚染が問題化した80年代後半から90年代に、一人当たりの卵消費量が世界一の日本では、業界を挙げて安全対策に乗り出し安全宣言をする一方、対策が遅れ気味で生食文化のないアメリカでは当局が生食は危ないと消費者に警告したことから、誕生した可能性がある。実際、日本でも鶏卵によるサルモネラ菌の食中毒は根絶されていない。日本で生食用と宣伝している卵は、生で美味しく食べられるという意味で、一般の卵と安全性に違いがあるわけではない。

===== 前代未聞の鶏卵食中毒事件(2010年) =====

 2010年の鶏卵食中毒は、14州で2千人超の患者が報告され5億5千万個の卵が回収された深刻なサルモネラ菌汚染事件で、原因が法令違反を繰り返していた悪質な養鶏業者による人災だっただけに、連邦議会でも公聴会が開かれ、鶏卵業界に対する連邦や州保健当局の監視体制が見直されるきっかけとなりました。

 問題の養鶏業者は、アイオワ州の人口30人の寒村で、一時は100人を超える不法移民をネズミが出るトレーラーハウスにギューギュー詰めで住まわせ、死んだ鶏を素手で処理させていたオースティン・ジャック・ディコスターとその息子でした。農務省(USDA)の管理官にわいろを贈り、不正食品加工と賞味期限の虚偽表示により、(おそらく過去の事件と通算で医者にかからなかった軽症の患者も含め)推定で最大5万6千人に集団食中毒を生じさせた罪を問われ、それぞれ3ヶ月の実刑が確定。ジャックは情状酌量を期待し、83歳の高齢で前立腺癌ほか数々の成人病を患う身と泣きつき釈明したものの、そのかいもなく投獄されました。

病気の鶏の首を折り、ゴミ置き場に蹴り込む従業員 劣悪な住環境を与えられ薄給で働かされる不法移民 

 左上の動画には、動物愛護団体が隠しカメラで盗撮した、従業員が病気の鶏の首を折りゴミ置き場に蹴り込む光景が映っています。右上の動画によれば、ジャックは地元で教会を寄贈した名士として敬われる一方、トレーラーハウスで暮らす乳児は(おそらく古い鉛製給水管のせいで)鉛中毒になり、不法移民の従業員は最低賃金で残業代なしに1日15~20時間の労働を強いられていました。

===== その後の鶏卵食中毒事件 =====

 その後も鶏卵食中毒が根絶されたわけではありません。2016年に3州で8人が発症した別の菌種(サルモネラ・オラニエンバーグ)の集団感染に続き、今年も4月に10州で新たな菌種(サルモネラ・ブレンダラップ)の集団感染が発生し、スーパーの店頭やレストランの厨房から2億個の卵が自主回収されました。

 これほど大規模な鶏卵回収は2010年の事件以来久しぶりでしたが、報告された患者数は45人…全米で年間に推定120万人が発症し、うち2万3千人が入院して450人が死亡するサルモネラ菌の食中毒の中では、目立たない方でした。被害が少なくて済んだのは、むしろアメリカの鶏卵の衛生管理が機能するようになった証拠と前向きに捉える見方もできます。

 汚染卵を生産したのは、全米第2位の鶏卵生産会社(本社インディアナ州)のノースカロライナ州の養鶏場でした。CDCの調査で、鶏舎や飼料置き場にネズミが侵入したり、従業員が卵の洗浄工程で手抜きしたり、清掃を怠ったり、不潔な手で卵に触れたりしていた事実が後から判明しました。

 東部を中心に出荷され、一時はウォルマートやフードライオンなどにも置かれていましたから、ひょっとすると皆さんの中にも購入なさった方がおられるかもしれません。しかし、卵は煮たり焼いたりして完熟で食べたらもちろん安全で、たとえ生のまま召し上がっていたとしても、皆さんのお身体の免疫力が強く結果オーライで済んだ可能性もあります。

===== 日本の卵の賞味期限 =====

 生卵が原因のサルモネラ菌食中毒は日本でも発生しています。少し古い統計ですが、2007年にサルモネラ菌食中毒を起こした患者数は約3千人で、そのうち約1割が生卵や卵の加工食品による被害とのことですから、一時帰国の日本で食べる卵ご飯も100%絶対に安全・安心とは言い切れないのです。2010年に宮崎県の70代の女性が生卵を食べて死亡した事件では、生産者が衛生管理を怠った責任を問われ、約4500万円の賠償を命じられています。

 実際、農林水産省食品安全セミナーで引用された資料の中には、全国で販売された生卵パックのサンプル検査で5040パックのうち3パックに汚染卵が見つかったとの調査報告もありました。しかし、一般的に食中毒は病原菌の密度が低ければ発症しません。日本卵業協会のホームページによれば、万一卵内にサルモネラ菌が存在していたとしても適切な温度管理と保存期間を守れば生食できるそうです。つまり、日本ではサルモネラ菌の増殖が起こらない期間を、安心して生食できる期間=賞味期限として表示しているのです。

 日本の賞味期限は、世界でいち早く鶏卵のサルモネラ菌汚染が問題になったイギリスの研究に基づき、家庭で冷蔵保存する期間を7日と想定、東京の平均気温をもとに算出されています。現在は、夏期(7〜9月)が産卵後16日以内、春秋期(4〜6月、10〜11月)が産卵後25日以内、冬季(12〜3月)が産卵後57日以内…その上で、実際にはパッキング業者と量販店らの話し合いで、年間を通じパッキング後2週間(14日)程度を、賞味期限と表示しているケースが多いそうです。

===== 新鮮卵の判別基準 =====

 アメリカの食品の賞味期限表示は、食の安全を保証する期限を示すものではありません。賞味期限の設定方法も生産者や小売店任せなので、客観的に卵の新鮮さを確認するなら、カートンに表示されたパッキング日のコード(3桁の数字)を解読しましょう…1月1日からの通算ですから、本来の日付に換算するなら次の表をご利用ください。

換算日

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

通常年

-0日

-31日

-59日

-90日

-120日

-151日

-181日

-212日

-243日

-273日

-304日

-334日

うるう年

-0日

-31日

-60日

-91日

-121日

-152日

-182日

-213日

-244日

-274日

-305日

-335日

 今年はうるう年ではないので、仮にカートンに221という3桁の数字が記載されていたら、上の表の通常年の段で、221に少し足りない8月の-212日を使い、221-212=9。つまり、8月9日にパッキングされた卵という計算です。

 今回、私たちはたまたま手許にあった3つのブランドのカートンを比べて、下の表を作りました。一般的に、賞味期限表示にはベストバイセルバイユーズドバイの3種があります。

賞味期限の種類

本来の意味

Eggland's

Best

Kroger

Walmart

(Great Value)

Best By(Best if Used By/Before)

最高の品質や風味を保証する期限

パック後2週間

パック後4週間

パック後6週間

Sell By

自主的に定めた店頭販売できる期限

パック後4週間

Used By

満足な品質で食べるようお勧めの期限

 そこで驚いたのですが、同じベストバイの賞味期限でも、やや高級ブランドのエッグランド・ベスト(下の動画)の場合はパック後2週間、ウォルマートのグレートバリューの場合はパック後6週間と1ヶ月もずれがあったのです。もっとも、私たちの近所では実のところエッグランド・ベストもセルバイ表示で、主流の賞味期限はパック後4週間パック後6週間のグレートバリューは例外の部類です。

 したがって、あらためて日本の賞味期限(パック後2週間)の精神を尊重するなら、アメリカでは賞味期限(主流)−2週間が生卵を安心して食べられる期間ということになります。ただし、日米の鶏卵の衛生管理の基準が同等という前提で、信じるか信じないかは皆さん次第です。

 わが家の近所のスーパー数店でパッキング日を調べたところ、最も新しい卵でもパッキング日から6日経っていました。米国鶏卵委員会(American Egg Board)のサイトには「大半の卵は産卵の翌日に小売店に届けられ、ほとんど全ての卵が3日(72時間)以内で届くとあったので、少しがっかりしましたが、室温で1日置くより冷蔵して1週間置く方が、いたみが遅いともあったので、許してあげることにしました。

 面白かったのは、どの店でも、割安で最も売れ筋のラージサイズ12個入りの卵パックが最も新鮮な卵だったという事実です。オーガニックやエクストララージ、18個入りなどの卵パックの中には、回転が悪く長く売れ残る商品もあります。輸送中も店頭販売中も冷蔵されているので安心と言われても、卵ご飯にするなら、やはり少しでも新しい卵を買いたいのが人情です。

===== 卵の等級とサイズ =====

 卵の等級(グレード)は卵の外観を評価した指標で、一般消費者が日常的に買う卵はAです。農務省によれば、形が決め手の目玉焼きやポーチドエッグには卵黄や卵白がしっかりしているAAがお勧めとのことですが、日本人の農水省なら正に卵ご飯にピッタシの生食用卵と推奨するでしょう。食の安全について直接の関係はありませんが、しっかりした卵白ほど抗菌作用が強いそうですから、私の素人判断ながら、同じ条件なら外見のよいAA卵の方が長持ちするのではないでしょうか。

 Bは業務用に回される卵で一般消費者の目に触れることはありませんが、例外的に青空市場などで見かけることがあるかもしれません。採れ立てで新鮮なのは結構ですが、衛生管理の行き届いた鶏舎で産み落とされたとの保証はなく、むしろ普通の卵よりも警戒が必要です。

 気室(卵の底の空気)の大きさも鮮度を示す目安で、水に入れると新鮮な卵は底で真横になります。日本にいても北米にいても、水に入れるとお尻を上に向けて斜め立ちする卵や、割ると卵黄が崩れたり卵白が水っぽく見えたりする卵は、しっかり加熱して食べましょう。鶏卵の食中毒は、当り前の注意をするだけで、かなりの高い確率で防げそうな気がします。

アメリカの卵の等級(グレード)

等級

AA

A

B

食用不適

気室

厚さ1/8インチ(3o)以内

厚さ3/16インチ(4.5o)以内

厚さ3/16インチ(4.5o)超

卵白

きれいでしっかり

きれいで十分しっかり

きれいだが、水っぽくても可

卵黄

くっきりした外観

かなりしっかりした外観なら可

はっきり見える外観

血玉

なし

なし

合計で直径1/8インチ(3o)以内

合計で直径1/8インチ(3o)超

 食の安全には関係ありませんが、ついでにアメリカの卵のサイズの表を掲載します。日本の卵と同様に重さで6区分されていますが、基準がダース単位なので一つ一つの卵のサイズは大小マチマチのことがあります。

アメリカの卵のサイズ

卵サイズ

Peewee

Small

Medium

Large

X-Large

Jumbo

ダース単位の最低重量

15oz.(425g)

18oz.(510g)

21oz.(595g)

24oz.(680g)

27oz.(765g)

30oz.(850g)

日本の卵のサイズ

卵サイズ

SS

S

MS

M

L

LL

1個ごとの重量

40~46g

46~52g

52~58g

58~64g

64~70g

70~76g

===== ご家庭で簡単にできる低温殺菌 =====

 さて、賞味期限に留意して新鮮な卵を買い、速やかに冷蔵庫に保管して数日中なら、生で卵を召し上がっても大丈夫と断言したいところですが、確率が低いとはいえ身近なスーパーで汚染卵が売られるリスクがゼロではありません。特にご家族の中に幼児や高齢者など免疫力が低い人がおられる場合には、わざわざ高価な低温殺菌卵を買わなくても、普通の卵をご家庭で低温殺菌して安心して召し上がってはいかがでしょう。

 低温殺菌卵は、上の動画のように、60℃(140℉)のお湯に3~4分浸けておくだけでできます。サルモネラ菌の死滅温度はギリギリ60℃、卵黄と卵白は、それぞれ65℃と60℃で凝固し始めるそうですから、温度調節がちょっと微妙です。

 市販品も同様ですが、低温殺菌は殺菌とはいえサルモネラ菌を減少させる技術で、完全に死滅させるわけではありません。低温殺菌後の卵を長く放置しておけば、再びサルモネラ菌が増殖してしまいますから、油断しないでください。