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2019年10月15日 (第149号)

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医 療

健 康

 e-シガレット吸引による新種の肺病が流行、これまでに37人死亡

 違法リキッドに含まれるビタミンEアセテートが原因?

 今春(2019年)からアラスカ州を除く全米でe-シガレットの吸引による新種の肺の病気が流行し始め、下のグラフでごらんのように9月にピークを迎えました。

新種の肺病患者の発生件数推移(CDC 3/31~10/26) 入院患者(1559人) 発症患者(1403人) ⇒拡大

 流行はメディアの報道や連邦政府や自治体のe-シガレット吸引の自粛策や規制により、ようやく下火になりつつありますが、これまでに37人の死亡が確認されています(下図)。

発生患者数(CDC 10/26現在) ⇒拡大

0

1∼9

10∼49

50∼99

100∼149

150∼199

死亡者数(Wikipedia 10/29現在) ⇒拡大

1人以上

2人以上

3人以上

 この肺病は軽い呼吸困難や息切れ・胸の痛みで始まり、次第に呼吸不全など呼吸器系の症状が深刻化する一方で、吐き気や嘔吐・下痢など消化器系の症状を併発するほか、疲労や発熱・体重の減少など不特定な症状を示します。発熱が白血球の増加を伴うこともありますが、感染症でないことは確認されています。

 治療は、呼吸不全の対処として酸素吸入や人工呼吸器による補助換気を施したり、ステロイド(副腎皮質ホルモン)の投与により体内の炎症を抑えたりする対症療法だけで、バラツキがありますが、患者は一般的に数日から数週間で快復します。


CDC(米国疾病管理予防センター)の犯人探し


 新種の肺病がe-シガレットに由来することは早くから明白でしたが、患者の大半が複数のe-シガレットを吸引していたために、病因がどのe-シガレットのどの成分によるものか特定するのは容易ではありません。

 そのためCDC(米国疾病管理予防センター)は、未だに病因を断定するのには慎重で、原因が究明されるまでe-シガレット全般の吸引を控えるよう呼びかけていますが、これまでのところ大麻系e-シガレットのリキッドに含まれるビタミンEアセテートという成分が病因として限りなく疑わしいとして、特に大麻系e-シガレットやリキッドは吸引しないよう強く勧めています。

 …ビタミンEには抗酸化作用があることから、ビタミンEアセテートの形でスキンクリームなど肌を守る化粧品に含まれていることがあり、肌から吸収される場合について、これまで有害性は指摘されてきませんでした。

 しかし、e-シガレットの場合は、ビタミンEアセテートが美容や健康促進の目的で使われたのではありませんでした。THC(テトラヒドロカンナビノール)という大麻成分の溶剤として使われ、患者の肺で大量に吸い込まれたのです。

 中でもDank Vapes(写真)という大麻系e-シガレットの有名ブランドはビタミンEアセテートの濃度が高く、今回の肺病患者の報告(右表)からも、有力な犯人のひとりであることは間違いなさそうです。ニコチン系のe-シガレットを吸って肺病になったとの報告もありますが、その中で最上位のJuulは若者に人気のトップブランドですから、吸引者のすそ野が広いことを考えれば、大麻系e-シガレットほど肺病リスクは高くなかったとも解釈できます。


裏社会の仕組み


 実はDank Vapesを売る違法業者は1社ではなく、何百社も存在していたようです。Dank Vapesのネーム入りの箱とカートリッジは、誰でもネットで簡単に購入できました。違法業者らは、それぞれが思い思いに製造した内容物をカートリッジに詰め、それぞれ思い思いの販売経路で、有名ブランドの大麻系e-シガレットとして売っていたのです。

 さらに、昨年(2018年)の暮れには、違法業者らにTHCを溶かすビタミンEアセテート濃度の高い溶剤もネットで卸売りする業者が現れます。乾燥大麻のTHC成分を溶剤に溶かしてリキッドをカートリッジに詰め、Dank Vapesの箱に入れてネット販売したら、少人数でもDank Vapesの違法販売ができる環境が整ったわけです。

 …実際、YouTubeで探すと、大麻系e-シガレットのカートリッジ補充液を作れるスターターキット(初心者でも簡単に作れる材料と道具のセット)を紹介する動画(⇒こちら)が、簡単に見つかりました。

 裏社会の競争は表社会より厳しいのかもしれません。今年(2019年)の早々に、類似の溶剤を売るライバルが雨後のタケノコのように現れました。最初に開発した業者は正体不明のまま、肺病の流行がメディアで大騒ぎになった今年(2019年)9月にサイトを閉じましたが、その後も中国系の違法業者は引続き販売を続けていたそうです。

 末端の小売段階では、今年9月にウィスコンシン州で、キャンディを装った箱にカートリッジを詰めて販売していた兄弟と母親が逮捕されましたが、正に氷山の一角に過ぎません。


ファッション化するe-シガレット


 背景には、e-シガレットのファッション化も一役買っているようです。下の2つの動画では、まだ若いユーチューバーが仲間にタメ口で話しかけるように、ペン型と腕時計型の喫煙具を紹介しています。教師の目を盗んで学校に持ち込むスリルを味わいたいのでしょうか?

 Dank VapesのようなビタミンEアセテート濃度が高い違法製品がよく売れたのも、吸引して息を吐くと濃い煙が出るのがファッショナブルだったからだと考えられます。

ペン型の喫煙具 腕時計型の喫煙具

 ネット社会になって、特に子供の間では、有益無害な流行もリスクを伴う流行も、玉石混交で一気に拡がるようになりました。お子様帯同で赴任なさっている皆さんは、お子様が通っている現地校では何か問題が起きていないか、お子様とも現地校とも風通しのいいコミュニケーションを心がけてください。