アメリカの 「気候と自然」・e-ガイド(印刷ページ

北海道の広さ並みの大洪水

★巨大な水たまり ★1993年ミシシッピー・ミズーリ川大洪水 ★1927年ミシシッピー川大洪水 ★西も東も大洪水


May 2010 Tennessee FloodsNashville

 日本でも、最近は突発的な集中豪雨が市街地を襲い死亡事故が起きるようになってきましたが、私たちが住むケンタッキー州レキシントンでも道路が冠水し、タクシーを降りた女性が濁流に呑まれて落命する悲しい事故がありました。

 このような鉄砲水はフラッシュフラッド(Flash Flood)と呼ばれています。スケールが大き過ぎて気づきませんが、ケンタッキーも含めミシシッピー川やオハイオ川の東は大アパラチア山脈の山麓ですから、市街地にも意外に多くの起伏があります。普段は目立たないクリーク(小川)に一気に水が流れ込んでくることがありますから注意してください。


巨大な水たまり


 反対に、中西部の諸州は平坦です。中西部に降った雨にはミシシッピー川を下ってニューオリンズでメキシコ湾に注ぐまで出口がありません。ミシシッピー川の流域では、上流に至るまで平坦な土地が続き、もともと「巨大な水たまり」ができやすい地理的条件なのです。

 全米各州の最高地点と最低地点の標高差を比較する表を作ってみたのでごらんください。上位5州はいずれも海に面していますが、内陸諸州だけでランキングを作るとトップのインディアナから8位のミネソタまで中西部の諸州がずらりと並ぶのです。

全米50州の標高差ランキング(標高差が小さい上位抜粋) (⇒全50州の表

順位(内陸) 最高地点と標高 (m) 最低地点標高 (m) 平均 標高差
1

Florida

Britton Hill

105

Atlantic Ocean

0

30

105

2

Delaware

Ebright Azimuth

137

Atlantic Ocean

0

20

137

3

Louisiana

Driskill Mountain

163

New Orleans

-2

30

165

4

Mississippi

Woodall Mountain

246

Gulf of Mexico

0

90

246

5

Rhode Island

Jerimoth Hill

248

Atlantic Ocean

0

110

248

6 (1)

Indiana

Hoosier Hill

383

Ohio River

98

210

285

7 (2)

Illinois

Charles Mound

377

Mississippi River

85

180

292

8 (3)

Ohio

Campbell Hill

472

Ohio River

139

260

333

9 (4)

Iowa

Hawkeye Point

509

Mississippi River

146

340

363

10 (5)

Wisconsin

Timms Hill

595

Lake Michigan

177

320

418

11 (6)

Michigan

Mount Arvon

604

Lake Erie

174

280

430

12 (7)

Missouri

Taum Sauk Mountain

540

Saint Francis River

70

240

470

13 (8)

Minnesota

Eagle Mountain

702

Lake Superior

183

366

519


1993年ミシシッピー・ミズーリ川大洪水


水が押し寄せるミズーリ州議事堂

 1993年には、ミズーリ川と上ミシシッピー川の流域が氾濫し、イリノイ、アイオワ、カンザス、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、南北ダコタ、ウィスコンシンの9州で洪水が発生しました。

 1927年に下ミシシッピー川で起きた大洪水と並ぶアメリカの史上最大の洪水。これに比べれば、ハリケーン・カトリーナの洪水などニューオリンズの局地的な洪水として片付けられてしまうかもしれません。

 南北1200km-東西700km…面積84万平方kmという本州の4倍近い広さの流域が4月から8月まで5ヶ月にわたり洪水の危険にさらされ続けたのです。実際に浸水した地域だけでも北海道の面積に相当する8万平方kmに上りました。浸水した農地は6万平方km、亡くなった方は50名、壊れた家屋は1万軒で、被害総額が150〜200億ドルと推定されています。

 そもそも前年の秋が多雨で、ミズーリ川と上ミシシッピー川のダムの水位が年初より高かったのだそうです。そこに雪がいっぱい降りました。さらに春になってからは、アメリカ南東部が熱波と干ばつに見舞われる一方、流域各地では嵐が吹き荒れて降雨量が平年の4倍から8倍に達っしました。セントルイス気象台の管区では、20河川が水位の記録を更新し、36地点で危険水位を越えました。

 7月にはセントルイス北方のミズーリ州クインシーで堤防が決壊し、付近の住民が故意に砂のうをどけ洪水を引き起こした容疑で逮捕されています。終身刑で有罪となり、現在も服役中ですが、一部には、流域の人々の天災に対する不満が、冤罪でスケープゴート(いけにえ)を生み出したのではないかと疑う声もあるようです。

 下ミシシッピー川(上ミシシッピー川とオハイオ川の合流点の下流)の方は、南東部の干ばつのおかげでオハイオ川から流入する水量が例年より少なく、この年は平穏でした。


1927年ミシシッピー川大洪水


この記事は、現在編集中です。

西も東も大洪水


 西暦2000年に、内務省の研究機関USGS(アメリカ地質調査所)が、32件の洪水を選んで「20世紀に起きた大洪水」という地図を作りました。これをごらんになっても、アメリカの大河川周辺の水害は避けられないものであることがお分かりでしょう。しかも、USGSはどうやら経済的な被害額に重点を置いて大洪水を選抜したもののようで、多くの人命を奪った重大な洪水がいくつかリストアップされていません。19世紀や今世紀に入ってからの洪水も含め、少し追加しなければいけないと考えています。

1900年 9月

ガルベストン・ハリケーン(Galvestone Hurricane of 1900

テキサス州ヒューストンの湾口ガルベストンで6〜8千人死亡。

1903年 6月

へップナー洪水

コロンビア川支流のウィロークリーク氾濫。247人死亡し、オレゴン州へップナー市壊滅。

@

1913年 3月

オハイオ洪水(含デイトン大洪水Great dayton Flood)

集中豪雨によりオハイオ州一円で467人死亡。被害1億4千万j。運河の時代が終焉。

A

1927年 4月

1927年ミシシッピー川大洪水(The Great Flood of 1927

支流に溜まった前年夏の降雨が下ミシシッピー川に流入。145ヶ所で堤防が決壊し7万㎢(⇒地図)が冠水。被害2.3億j。黒人大移動の一因。

B

1936年 3月

1936年春北東部大洪水

ニューイングランドで積雪の上に豪雨。紡績の町マサチューセッツ州ローウェルなどで被害総額3億ドル。死者150人超。

1938年 9月

1938年ニューイングランド・ハリケーン

カテゴリー5の大ハリケーン。カテゴリー3の勢力を維持してロングアイランドに上陸。洪水による死者494人、ハリケーン被害3億j(現代換算47億j)。

C

1951年 7月

カンザス大洪水

集中豪雨でカンザス、ネオショー川が氾濫。死者15人、被害8億ドル。

D

1964年12月

1904年クリスマス洪水

積雪の上に集中豪雨で北カリフォルニアとオレゴンの河川が軒並み氾濫。ワシントン、アイダホ、ネバダの一部も被災。死者47人、被害4.3億j。

E

1965年 6月

サウスプラット川洪水

東部コロラドで短時間に350mmの降雨があり、サウスプラットとアーカンザス川が氾濫。死者24人、被害5.7億j。

1969年 8月

ハリケーンカミール・バージニア洪水

(Hurricane Camille)

メキシコ湾岸に上陸。北上後、東にコースを変え、シェナンドーア渓谷から中部バージニアの一帯で洪水を引き起こした。洪水による死者69人、被害12.5億j。

1972年 2月

バッファロークリーク洪水(Buffalo Creek Flood

ウェストバージニアの炭鉱で石炭スラリー(副産物)を貯めたダムが決壊。有毒な泥の洪水で、村民5千人のうち死者125人、負傷者1121人。4千人が家を失った。

1972年 6月

ブラックヒルズ洪水

5時間に375mmの降雨。サウスダコタ州ラピッドシティで、死者237人。被害1億6千万j。

F

1972年 6月

ハリケーンアグネス洪水

メキシコ湾岸に上陸し大西洋に抜けたハリケーンがロングアイランドに再上陸。ペンシルバニア中心に死者117人、被害32億j。

1976年 6月

ティートンダムの崩壊

盛土ダムが漏水により決壊。死者11人、被害4億j。家畜13千頭死亡

1976年 7月

ビッグトンプソン・キャニオン洪水

集中豪雨で、コロラド州のビッグトンプソン、キャッシュラプーダ川が氾濫。死者144人、被害39百万j。

1977年 7月

1997年ジョンズタウン洪水

6〜8時間に300mmの降雨で、コネモー川が氾濫。死者78人、被害3億j。ペンシルバニア州ジョンズタウンは1889年の大洪水で、ダムが決壊し2209人が死亡して以来の惨事。

1977年11月

トコアクリーク洪水

集中豪雨により、アトランタ北東140qのダムが崩壊。39人死亡、被害2.8百万j。

1980年 5月

セントへレンズ火山の爆発

ワシントン州のタトル、カウリッジ川がせき止められ、洪水で60人死亡。

G

1983年 4月

ソルトレイク洪水

雪解け水と雨が内陸湖のグレートソルト湖に流れ込み、水位が上昇。1986年6月にピーク。

H

1983年 5月

1983年下ミシシッピー川洪水

集中豪雨によりミシシッピー州中部と北東部で洪水。バージニアとウェストバージニア州で死者69人、被害12.5億j。

I

1985年11月

中部アパラチア洪水

集中豪雨でシェナンドーア、ジェームズ、ロアノーク川が氾濫。死者17人、被害10億j。

J

1990年 4月

トリニティ・レッド・アーカンザス洪水

豪雨が繰り返し襲来。3河川が氾濫し、テキサス、アーカンソー、オクラホマ州に被害。死者17人、被害10億j。

1992年 5月

アラスカ洪水

雪解け水でユーコン川流域が百年に一度の洪水

K

1993年 1月

アリゾナ洪水

冬季の長雨で、ヒーラ、ソルト、サンタクルス川が氾濫。アリゾナ州で、被害4億j。

L

1993年 5月

1993年ミシシッピー・ミズーリ川大洪水

長期にわたる流域の豪雨で、観測史上最大の洪水。死者48人、被害200億j。

N

1995年 1月

カリフォルニア洪水

ウィンターストームが繰り返し襲来。死者27人、被害30億j。

M

1995年 5月

ルイジアナ洪水

ルイジアナ州を中心に豪雨が繰り返し襲来。サウスセントラル地方で、死者32人、被害50-60億j。

O

1996年 2月

ウィラメットバレー洪水ほか

雪解けと豪雨でオレゴン州のウィラメット川(コロンビア川支流)が氾濫。ワシントン、アイダホ、北カリフォルニアも含め死者9人、被害10億j。

P

1996年12月

1997年元日北カリフォルニア洪水ほか

雪解けと豪雨で北カリフォルニアの河川が氾濫。サクラメントはじめ太平洋ノースウェスト地方で、死者36人、被害20-30億j。

Q

1997年 3月

オハイオバレー洪水

停滞前線が居座り、オハイオ川と支流が軒並み氾濫。死者50人以上、被害5億j。

R

1997年 4月

北のレッドリバー洪水

急な雪解けで北のレッドリバーが氾濫。ノースダコタとミネソタ州で、死者8人。被害20億ドル。

S

1999年 9月

ハリケーンフロイド洪水

スピードが遅いハリケーンフロイドによる降雨によりノースカロライナ東部で洪水。死者42人、被害60億j。